連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」
免疫力が低下したから風邪を引いたは誤解? 子どものために知っておきたい「免疫力」の話

小児科医 / 高橋孝雄先生

1年目の小児科医は風邪を引きまくり、やがて“鉄人”になる

I:免疫力というものはウイルスなどの異物に曝露するという“経験”によって作られていく、ということはわかりました。であれば、どんなものにも曝露されていない(と思われる)生まれたての赤ちゃんには免疫力がほとんどないということですか?

高橋先生:それがそうとも言えないんです。赤ちゃんはお母さんのおなかにいる間に、へその緒を通じて免疫タンパクもらいます。生まれた途端に色々なウイルスにさらされることになりますが、簡単には病気にならないようにお母さんがちゃんと抗体を与えているわけです。お母さんの免疫で守られているので、生後すぐの赤ちゃんは病気になりにくいんですよ。他には、母乳も赤ちゃんの免疫力アップに一役買っていると考えられています。

聴診器をあてられる赤ちゃん

I:そう言えば、生まれたての赤ちゃんはあまり病気をしませんね。

高橋先生:ただ生後半年ぐらいたつと、お母さんから受け継いだ抗体がなくなってきます。その頃から自分の免疫力で自分を守れるようになっていくんですね。気づかない間に友だちから風邪のウイルスをもらって熱を出し、親を心配させることもあるけれど、そのような経験を経て赤ちゃんは免疫を獲得していきます。1回経験しないと身につかない免疫力っていっぱいあるんですよ。異物にはウイルスや細菌ばかりではなく、牛乳タンパクとか卵白などの食品も含まれます。これらの食品に早くから少しずつ接することによって正しく免疫力が育ち、かえってアレルギーを起こしにくい体になることも分かってきました。

I:予防接種もそういう考え方をもとに行われているんですよね?

高橋先生:そのとおりです。感染症の中には、時に症状が非常に重くなったり、後遺症を残したりするものがあります。感染症にかからないように、あらかじめ毒素をもたないウイルスをからだに入れて免疫をつけるのが予防接種の仕組みです。本物のウイルスが体内に侵入した時に「あ、知っているやつだ」とやっつけることができるわけです。

I:なるほど、今回も勉強になりました。

高橋先生:最後に一言。免疫力が何らかの原因によって弱くなれば感染症にかかるリスクが高まりますが、強すぎればアレルギーを起こします。免疫力は弱くても問題ですが、強すぎても問題なのです。車のアクセルとブレーキの関係のようなもので、バランスが大切です。免疫のアクセルを踏みすぎると、食品へのアレルギー反応が起きることもあるし、花粉症にもなります。でもブレーキを踏みすぎると今度はウイルスや菌が侵入してしまいます。通常の生活をしていれば、免疫反応は自然にちょうどよくバランスが保たれるようになっています。なにごとも、バランスが大切です。

I:はい、なにごともバランスですね。それにしてもお話を伺うたびに、人間のからだの不思議と私たちが持っている素晴らしい力に驚かされます。本日もありがとうございました!


感染症と免疫力のお話、いかがでしたでしょうか。いつもと違う方向性のお題でしたが、非常に興味深いお話で思わず引き込まれました。

さて新型コロナの脅威はまだまだ続きそうです。誰も抗体を持っていないウイルスだけに、とにかく感染しないよう手洗い、アルコール消毒を徹底してください。そして一日も早く、平穏な日々が戻ってきますように。

高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 

専門は小児科一般と小児神経。
1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

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