連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 
子どもの能力が急速にのびる時期
“クリティカル・ピリオド”を逃さないことが重要です

小児科医 / 高橋孝雄先生

読解力は得意な子でも苦手な子でも「平等に」伸びます

読解力は得意な子でも苦手な子でも「平等に」伸びます

高橋先生:言語に関するクリティカル・ピリオドは幼児期以降にもあります。文章から意味を読み取る能力は小学校6年間がクリティカル・ピリオドです。この時期に本をたくさん読ませることには大きな意味があります。中学生以降では読解力の伸びはほぼ横ばいになるからです。

I :つまり文章を読む力は小学校6年間の努力で決まるということですか?

高橋先生:この時期に努力するか否かで、中学以降の能力に差がつくということです。特に低学年では「音読」が効果的です。文章を読み、それを自分自身の声として聞く、というトレーニングが、視覚(読む)と聴覚(聞く)の連動を通じて、言語発達を促すように思います。

I :小学生では授業で音読しますが、あれは理にかなっているのですね。

高橋先生:そういうことです。すこし話題が逸れますが、読み書きが苦手、という困難を生まれつきもっている子どもたちが少なからずいます。学習障害のひとつである読み書き障害(ディスレクシア)です。小学生の読解力テストの結果を調べてみると、能力のある子が努力をすれば良いスコアを出すのは当たり前として、ここが重要な点なのですが、たとえ読み書き障害によって能力が劣っていても、努力をすれば同じようにスコアが伸びるのです。最終的な到達スコアには差があるのですが、読むのが得意な子も苦手な子も、同じようなペースで上達していくんです。つまり読解力のクリティカル・ピリオドにおいて、生まれつきの能力に差があったとしても、努力が報われるという点では得意な子も苦手な子も平等ということです。

I :最終的な到達点の違いは、やはり遺伝的な要因による?

高橋先生:それはそうですね。でも、大事なことは、だからといって努力が無駄というわけではないという点です。努力をすれば、能力があるないに限らず、報われる。どんなに苦手なことでも、その時期に頑張れば伸びるんです。逆に言えば、苦手だからと努力しなければ、その能力が伸びることはありません。当たり前の話です。

I :苦手だからと逃げていては、苦手なままで大人になってしまいますからね。あぁ、子どもの頃の自分に教えてあげたい…と思ったら、親が口酸っぱく言ってましたね(遠い目で)

高橋先生:アハハハ。ちなみに僕みたいに文章を読むのが苦手な人は、耳から聞いた時の理解力が高かったりするものです。だったら、人から話を聞く機会を増やせばいい。反対に読むのが得意な人は、話し言葉で説明されると面倒に感じたりする。だったら、文字情報からいっぱい情報を得るといい。これは優劣ではなくて、得手不得手の問題です。不得手なことでも逃げるのではなく向き合いつつ、得意なことを伸ばす努力をするのが一番だと思います。

I :はい、そうします! 本日は言語に関するクリティカル・ピリオドについて学びましたが、幼児期には話し言葉を、小学生では読み書きをしっかり習得できるよう、親として子どもを見守っていきたいと思いました。また次回もよろしくお願いいたします!


わが子がすくすくと成長する姿に驚き、感動しながら子育てを楽しんでいるママ・パパだからこそ、持って生まれた能力を伸ばしてあげたいと願うものでしょう。その思いをちゃんと伝えるためにも、発達のクリティカル・ピリオドを見極めながら、わが子の成長を応援していきたいですね。

高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 

専門は小児科一般と小児神経。
1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

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