先日、新型コロナウイルス感染症が「5類感染症」へと移行。感染症の脅威自体がなくなっているわけではなく、流行の再拡大と医療現場などの混乱を懸念する専門家は多いですが、それでもようやく“次のステージ”に進めるのかな、という雰囲気が漂っています。
そこで、コロナ禍3年の子育てについて、改めて振り返りたいと思います。この特殊な環境での3年は、子どもにどんな影響を与えたのでしょうか。発達に影響する可能性はあったのでしょうか。新百合ヶ丘総合病院・発達神経学センター長、慶應義塾大学名誉教授で小児科医の高橋孝雄先生にお聞きしたいと思います。
コロナ禍が子どもの発達に影響を与えたとは考えにくい
担当編集I(以下、I):この3年超の、自由が制限された中での生活は子どもにとって影響があったのか、なかったのかについてお聞きしたいと思います。
先生は、コロナ禍の初年度の記事(2020年10月)で、“子どもは厳しい環境にも適応し、立ち直る力を持っているから、コロナで生活様式が変わっても、それが子どもの将来に大きな影響を及ぼすことはない”という旨の発言をされています。単刀直入にお伺いしますが、この考えは変わらないですか?
高橋先生:ええ、変わらないです。この3年はたしかに“息苦しい毎日”でした。大人も子どももそれは同じでしょう。でも、その経験が子どもの将来に暗い影を落とす…みたいなことはやっぱりないと思います。
I:長期的にマスク生活が続いたことで子どもの発達に影響があるのではないか、という議論もありましたよね。他者との関わり方を身につけていく重要な時期に、目の前にいる人の表情が見えないことで“学びの機会”が大きく失われてしまう――概ねそんな内容だったと認識しています。40年以上小児科医として、また発達の専門家としてたくさんの子どもを見てきた先生からすると、こうした議論はどう思われていたのでしょうか。
高橋先生:その議論の具体的な内容を細かく把握しているわけではないのですが、マスク着用が子どもの発達に決定的な影響を及ぼしたとは考えにくいですね。少し強い言い方になりますが「たかがマスク」ですよ。
たしかに口元が隠されているのでお互いの表情は分かりづらいし、マスクをとって笑った方が気持ちは伝わりやすいとは思いますよ。でもつけていたからといって、互いの気持ちが通じないわけではない。たとえばマスクをして目だけが出ている場合でも、子どもは大人の表情をしっかり読めているという研究もあったりします。つまり、赤ちゃんや子どもは、情報の量が少なくても、質が変化しても、そこにある手かがりから他者の感情を察知し、理解する能力をちゃんと備えているようです。
I:それはなんとなくわかります。電車とかで赤ちゃんを見かけると、ついつい微笑みかけてしまうのですが、マスクをつけたままで微笑みかけても、赤ちゃんはちゃんと微笑み返してくれたりするんです。あくまで個人的な体験レベルですけど。
高橋先生:マスクを外す、外さないでこれだけ議論になるのも、すごく日本的ですよね。もちろん批判的な意味合いで言っているわけではないですよ。他人の目が気になって、マスクを外してもいいよと言われてもなかなか外せない子もいます。顔を出すことが恥ずかしいと感じるひとは大人にも子どもにもいます。けれど、それも一時的なものだと思うんです。マスクを外すことが少しずつ当たり前になっていけば、何事もなかったかのようにノーマスクですごせるようになりますよ。それが子どものレジリエンスです。僕は今こそ改めて「子どものチカラを信じましょう」ということを強調したいですね。