【専門医監修】子宮頸がんとHPVワクチン、日本人が知っておきたい話(後編)

ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因となって発症する子宮頸がん。以前は50代以降の女性に多く見られたこの病気が、30代〜40代のプレママ・ママ世代で増加していて社会問題になっています。感染予防のために公費をつかったワクチン接種は、世界では2006年頃から始まり、今では接種率70%を超える国も珍しくありません。一方、日本で定期接種の対象年齢となっている12歳〜16歳の女性の接種率は約0.6%と低迷。この接種率の低さは20年後、30年後に「結果」となって現れると多くの専門家が警鐘を鳴らしています。「この国の子どもたちの未来のために、HPVワクチンを接種すべき」と語る、慶應義塾大学名誉教授で産婦人科医の吉村泰典先生にお話をお聞きします。

子宮頸がんを予防するメカニズムとは

子宮頸がんを予防するメカニズムとは

――まずは基本的なことからお伺いします。HPVワクチンを接種すれば、なぜ子宮頸がんを予防できるのでしょうか?

吉村先生:新型コロナウイルスの報道で知った方も多いかと思いますが、ワクチンというのは簡単に言うと、病原体を無毒化したものです。人の体には異物を排除する働きがありますから、予防接種でワクチンを体内に入れると、異物を排除しようとする免疫機能によって、その病原体に対する抗体ができます。HPVワクチンも同じ原理で、ヒトパピローマウイルスが腟や子宮に付着して、侵入するのを抗体がブロックし、感染を予防するんです。

――前回の記事でお聞きしましたが、ヒトパピローマウイルスは性行為で感染することがほとんどなんですよね。

吉村先生:そうです。性体験がある方であれば、かなりの割合で感染するウイルスです。しかし、多くの場合は陽性の状態は続かず陰性化します。しかしウイルスがなくなるわけではありません。ただ、HPV感染症が持続すると、がんに変異する前段階の前がん病変となり、それが子宮頸がんの発症につながっていくんです。ですから、そもそもウイルスに感染しないようにワクチンを接種するのが安心だということです。

――先月、日本でも9価ワクチンが承認されたとのニュースがありました。これまで日本では2価、4価のワクチンが使われておりましたよね。どうして同じHPVウイルスにいくつものワクチンがあるのですか?

吉村先生:インフルエンザの流行期にA型か、B型かが取り沙汰されますよね。あれと同じで、一言でヒトパピローマウイルスと言っても200種類以上の異なる型のウイルスがあるんです。2価ワクチンというのは、子宮頸がんなどを発症しやすいハイリスクHPVの16型、18型、2種類に対して効果があり、4価になると、16型、18型に加えて6型と11型のワクチンということになります。新しく承認された9価は子宮頸がんの原因となるほとんどのヒトパピローマウイルスを網羅している点で画期的なHPVワクチンと言えます。

――逆に言うと、定期接種の2価と4価だけで子宮頸がんを予防できるものなのでしょうか?

吉村先生:もちろんです。日本のデータでは子宮頸がんから検出されるウイルスの40~50%がHPV16型で、20~30%はHPV18型です。つまり16型と18型で子宮頸がんの原因の60~70%を占めていることになります。16型、18型に感染している女性が子宮頸がんになる危険度は、感染がない女性の200~400倍高い(※1)と言われていますから、2価、4価でもかなりの予防効果があります。新型コロナウイルスのワクチン開発には多大なる時間と資金が必要であることは、多くの報道でご存知だと思いますが、それはどのワクチンにも言えること。HPVワクチンの効果も大規模な臨床試験で実証されて、発売までに至っています。未感染者に対しては、HPV16型、18型への感染をほぼ100%予防し、前がん病変の発症をほぼ100%抑えることが証明(※2、※3)されているんです。

次のページ “根絶”を目指す欧米各国の取り組み

この記事をシェアする

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

あなたへのおすすめ

おすすめの記事を見る

記事を探す

カテゴリから探す

キーワードから探す

妊娠期/月齢・年齢から探す