【専門医監修】子宮頸がんとHPVワクチン、日本人が知っておきたい話(後編)

“根絶”を目指す欧米各国の取り組み

“根絶”を目指す欧米各国の取り組み

吉村先生:海外に行くと多くの医療関係者らから「なぜ日本ではHPVワクチンを接種しないんだ?」と言われます。それぐらい海外から見れば日本の低い接種率は「意味がわからない」と思われているんです。それは、このワクチンの効果が確実にあることがわかっているから。たとえば早くからHPVワクチン接種の公費助成をスタートしたオーストラリア、イギリス、米国、北欧などの国では、ワクチン接種世代でHPV16型、18型への感染が激減していることが分かっています。接種率が約90%と言われるスコットランドのデータでも、2009年に20~21歳で接種を受けなかった女性の感染率は28.8%だったのに対して、接種導入後の世代が同じ年齢になった2013年には10.1%と減少していて、HPVワクチンの有効性が証明されています(※4)。

――スコットランドでは約90%の女性が接種しているんですか。特別な事情で接種ができない人以外はほとんど全員受けているという感じですね。

吉村先生:そうです。しかも接種率が70%を超える国では、すでに接種世代の前がん病変の発生が明らかに低下しています。子宮頸がんは発症前に必ず前がん病変になりますから、前がん病変が少ないということは、すなわち数年から数十年後には子宮頸がんが激減していくだろうと予想できます。オーストラリア(※5、※6)、イギリス(※7)、米国(※8)での調査によると、ワクチン接種世代の若者は自分でワクチン接種をしていなくてもHPV16型、18型に感染している割合が低くなっています。つまり“集団免疫”の効果が現れてきているんですね。

――“集団免疫”ですか。新型コロナウイルスのニュースでよく聞く言葉です。

吉村先生:免疫(抗体)を持っている人が多くなると、感染する人が少ないので人から人への連鎖的な感染をしにくくなる。その結果免役を持たない人も感染しにくくなり、社会全体の感染率が下がる。これがHPVワクチンの予防接種でも証明されているという事です。定期接種というのは集団免疫の獲得を目的に行われるものなのですから、当然といえば当然の結果なんですが。

――集団免疫の考えに基づくと、女性だけでなく男性の感染も意識する必要はないのでしょうか? もしかしたら男性には感染しないウイルスとか?

吉村先生:いえいえ、男性にも当然感染します。性行為を通じて性別関係なく感染が広がっていきます。男性はHPV感染で、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなどを発症するんです。オーストラリアでは2013年から男性への定期接種も開始していますが、1985年には10万人あたり20人(※9)を超えていた子宮頸がんの発症数が2020年には10万人あたり6人以下になって、患者数が少なく発症が稀な“希少がん”と呼ばれるようになると言われています。そして2028年には10万人あたり4人以下で、いわゆる“根絶”状態になると予想されています。人類が撲滅に成功した唯一の感染症である天然痘は、イギリスの医学者エドワード・ジェンナーがワクチン開発を始めたのが1796年で、WHOが天然痘撲滅宣言を出したのは1980年です。実に200年近くの年月がかかったけれど、やり遂げている。医療が進歩した現代では、ワクチン接種に社会全体で取り組めば20~30年で根絶できる事をオーストラリアの例が示しています。

――日本でも2013年4月以降、12歳〜16歳の女性は公費で無料接種できる状態です。しかし定期接種開始直後に、“副反応”の疑いがメディアで報じられて厚生労働省が「積極的勧奨」を取り下げたため、以来7年以上、ずっとその状態が続いていますね。

吉村先生:はい。その後、日本でも大規模な疫学調査が行われて、ワクチンと問題視されているさまざまな“副反応”に関して、医学的な関連がないという結論が出ています。にもかかわらず、国は積極的勧奨を再開できていない。私は医師として言いたいのは一日も早く再開して、対象者が接種を受けやすい環境を作っていただきたいと心から思っています。

次のページ ワクチン接種で1次予防、定期検診で2次予防を

この記事をシェアする

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

あなたへのおすすめ

おすすめの記事を見る

記事を探す

カテゴリから探す

キーワードから探す

妊娠期/月齢・年齢から探す