高橋先生:発達障害では、二次障害を未然に防ぐことが大変重要です。生まれつきの性格で多動傾向があったり、自閉傾向があったりすることを“一次”と考えると、お前はダメだ、変わり者だ、と言われ続けて育つことによって起こってくるのが二次障害です。たとえばADHDの子であれば、多くの物に興味が湧いて目移りするという個性は“才能”と捉えることもできるのですが、「お友達をみてごらん。なぜ、できないのかな…」「ここに座っていなさい、話を最後まで聞かなければダメ」などとダメダメダメでやっていくと、次第に自信を失い、「自分が好きという感覚」、つまりセルフ・エスティーム(=自己肯定感)が失われていくのです。
K:そこから二次障害が生まれると。
高橋先生:そうです。たとえば、お母さんに叱られてばかりいると、「僕は本当にしょうがない。お母さんを泣かせている」と思いはじめ、「たしかに自分はみんなと違うし、自分なんか幼稚園にいないほうがいいし、お母さんに迷惑をかけるから行かない」というふうになる。子どもは皆、自分が王様なので、生まれながらにセルフ・エスティームを持っているんですね。しかし障害が理解されず、ずっと叱られ続けていると、生まれ持ってのセルフ・エスティームが次第に削がれていく。そうすると自信がなくなって、さらに失敗を繰り返す。社会にますます適応できなくなっていく。これが二次障害です。二次障害を防ぐためには、まず親が寛容になることです。
K:注意したいところですが、一方で親としてはやはり最低限ダメなことはダメと教えたいと思いますよね。すごく線引きが難しいところですが、親はどこまで子どもに寛容であるべきなんでしょうか?
高橋先生:思いっきり寛容になることです。
K:即答されましたね(笑)。
高橋先生:はい。子育てでは、障害の有無にかかわらず、気にしないこと、楽しむこと、が基本だと思っています。とにかく寛容になること。寛容になることで子どもをダメにするということは、まずないでしょう。
具体的には、特に発達障害のあるお子さんでは、1回注意したいと思ったら、まず9回褒めること。9回褒めたら、1回叱る。そして叱るときはその場で叱って、後で言わない。その場で短く簡潔に叱る。
K:9回褒めて1回ですか。
高橋先生:そう! 褒めると言っても、そう難しいことではありません。共感することです。根気よく「やったね」「そうだね」「そのとおりだね」と共感すること。子どもが「学校に行きたくない」と言ったら、「それはダメよ」と返すのではなく、「そうだよね、行きたくないよね。寒いもんね、今日はやめようか」というふうに答える。「そりゃそうだよね、ママもそういうことあるよ」と共感する。
K:親はグッとこらえて、子どもを認めてあげることが大事なんですね。
高橋先生:その通りです。それから発達障害のお子さんのもう一つの特徴は、ものすごく得意なことと、ものすごく苦手なことがあるというところ。球技は苦手だけど、走るのが速いって子はたくさんいますよね。そんな子に球技だけやらせて、どうします?
K:もったいないですね。
高橋先生:そう思うでしょ! 野球ではなく、陸上部で走らせたほうがいい。得意なことだけやらせる。得意なことを伸ばせば、セルフ・エスティームが育つわけです。
K:得意なことだけを……どんな子どもにも、何か得意なことがあると?
高橋先生:絶対あります! それを親であったり周りの大人が見つけ出してあげればいい。なにもすべての子を同じ型にはめる必要はないのですから。日常生活の他の子どもにとっての「当たり前のこと」ができないのに、何か他のことにものすごく長けている場合が発達障害の子どもたちでは多い。自閉傾向があれば、目から入る情報に強くて、一回見たものは本当になんでも覚えてしまう。お城好きの子なんかは、石垣のパターンを見ただけで「あ、これは姫路城だ」って言い当てるみたいな。
K:ある意味、天才型でもあるんですね。先生、今日はどうもありがとうございました! 仮に自分の子が発達障害だとわかっても、「ほかの子より少し強い個性の持ち主で、非常に得意なことのある子」と認めてあげることが大切なんですね。先生の話を聞いて、よくわかりました!
高橋先生:最後に一言。本当に気になるなら、その時は遠慮なくお医者さんに相談してください。くれぐれもひとりで悩んだり、くよくよしないで。