【小児科医・高橋孝雄の子育て相談】わが家の価値観と社会のルール――子どもの社会性を育むには?

【小児科医・高橋孝雄の子育て相談】
わが家の価値観と社会のルール
――子どもの社会性を育むには?

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「公園でもマスクを外さないでね!」と声をかけるママに、「でも、〇〇ちゃんはしてないよ」と答える小さな子。まだまだ続きそうなコロナ禍の中、それぞれの家庭の価値観の違いが目に見える形であらわれる場面が、今までよりも増えてきたように感じませんか? それぞれの家庭で価値観が異なる中、わが家の価値観を子どもにどう伝えていくか。また社会のルールとどう整合性をとっていくべきか――〈子どもの社会性を育む〉をテーマに、慶應義塾大学医学部教授で小児科医の高橋孝雄先生に伺います。

 

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<プロフィール>
高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 専門は小児科一般と小児神経
1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

 

社会性とは多様なものを受け入れる力のことです

担当編集I(以下、I):今回のテーマはずばり「子育てにおける社会性とわが家のルール」です。たとえば最近ですと、新型コロナウイルスに対する危機意識が、それぞれの家庭でも違ったりするわけです。わが家としてはこれくらいは許容範囲だけれど、もしかしたらお友だちの家庭は気にするかもしれない…こういうことがいたるところで大なり小なり起こっているかと思います。

高橋先生:ええ、そうでしょうね。

I:こうした問題に限らず、自分の子への教育方針として、社会のコンセンサスや常識を意識しながらも「わが家ではこうしたい」という独自ルールのようなものがある場合も少なくないと思います。まぁ、コロナの危機意識については、社会的コンセンサスが得られていない側面もあるので、例えとして適切ではなかったかもしれませんが(苦笑)。いずれにせよ、先生にお聞きしたいのは、社会性を育むこととわが家の独自のルールを守らせることの関係性です。社会性を備えた人間に育ってほしいと思いつつ、家庭として大事にしたいルールもあると。それらが相反さない場合はいいのですが、そうではない場合にどうしたらいいのでしょうか。

社会性とは多様なものを受け入れる力のことです

高橋先生:他の家庭のルールとわが家のルールに相違があった場合、とのことですが、そもそも家庭によって価値観が異なるのは当たり前のことです。さらに、異なる価値観やルールが混在しているのが社会であり、それらがぶつかって起きるいさかいを自然に調整していくのも社会の役割です。むしろ概念や価値観が均一な社会ってちょっと怖いですよね(笑)。そう考えると、多様なものを受け入れることができるようになることが、社会性が育まれるということになるかと思います。ですから、子どもたちに社会性とはなにか、社会のルールとはなんなのかを伝えたいのであれば、まずは「人はそれぞれ違うものである」ということを教えるのがいいんじゃないかと思います。

I:価値観は多様であり、多様な価値観の集合体が社会というもの。そういう前提をまず教えるべきだということですね。

高橋先生:ええ。個人や家庭で考え方や価値観に違いがあるのは当たり前ですし、そうでなければ、とても生きづらくなってしまいます。ですから子どもにも、社会にはいろいろな考え方があることをまず教えておくべきでしょう。一方で社会はみんなの価値観の平均値、みんながなんとなくいいなと思っている形に集約されていく傾向があると思います。それがコンセンサスというものかもしれません。そして、それは時代によっても変わるし、地域によってももちろん違ってくる。

I:それは仰るとおりですね。

高橋先生:そこで、本題に戻りますけど、ご自身の家庭のルールとよそのルールや社会のコンセンサスが異なっている場合、どうしたらいいかというご質問ですよね。それは、とてもいいチャンスだと思いますよ。なぜ、違うのか。どうしてわが家はそういうルールにしているのか、そのことについて親としてお子さんに説明するいい機会では。その際には、ご自身のものとは異なる価値観を持つ他の家庭や社会を頭ごなしに否定しないようにしてください。むしろ、どんなに価値観が異なっていても、相手を否定してはならないことをしっかり伝えるべきなんじゃないですか。そういう“教え”により、子どもが「これが好き、でもそれもいいね」と素直に感じられるようになったら、素晴らしいことだと思いませんか。

正しいことは“ひとつだけ”ではありません。

正しいことは“ひとつだけ”ではありません。

I:先生のお話には全面的に共感しますが、やや視点を変えてお聞きしますね。より具体的な、ママ・パパ目線での質問となりますが、たとえば市販のスナック菓子。知り合いのご家庭で実際にあった話ですが、乳児期〜幼児期と、ずっと市販のお菓子は与えずに、自然素材を使った手作りおやつでがんばって育ててきたのに、子どもが小学校に上がって友だちの家で遊ぶようになった途端に、そこで市販のお菓子の味を覚え、大好きになってしまったと。あんなにがんばってきたのに、そのお友だちとの付き合いによって、すべてが台無しになってしまったと落胆していたんですね。これは、親としてどう受け止めたらいいのでしょうか(苦笑)。

高橋先生:受け止めるもなにも、それが現実ですよ。自分が大切にしていた価値観が、よそではまったく重要視されていなかった。別の価値観に触れて、それもまた正しいことかもしれないと感じた。それ以上でも以下でもありません。いいじゃないですか。それもひとつの経験であり、成長だと思いますよ。

I:う〜ん、それはそうなのでしょうが…。わが家の価値観が「ちょっと特殊」だった場合、それはいつか侵されるかもしれない。ということを覚悟したほうがいいと?

高橋先生:もちろんどんな少数派の志向や考え方も、社会性に反しない限りは認められるべきだと思いますし、これからも多様性の傾向は強くなっていくでしょう。お菓子も食事も手作りで外食はできるだけさせません、テレビは見せませんというご家庭がありますよね。和食を心掛け、箸を使うことをモットーとしております、というご家庭もあります。それらの習慣が悪いことだとは到底思えません。ただ現実、世の中の多くのご家庭は、市販のお菓子も食べさせるし、テレビも見せているし、ファストフードも利用している。それらもまた間違ったルール、悪い習慣とは言えないのです。個人の価値観を持つことはいいことだし、必要でもあるけれど、他人に押し付ける類のものではない。社会の大多数の価値観に、子どもが“染まっていく”ことに落胆することはないと思いますよ。

I:先生の言葉をお借りするなら、それが現実ということですね。食べ物に関しては、こだわっている家庭も多いし、それこそこれからは菜食主義やヴィーガンの家庭も増えていくかもしれません。そうなると社会の考え方も変わっていくのでしょうね。

高橋先生:そうですね。子どもを育てる上での具体的なルール作りというのは、いずれにせよ「親心」からくるものですよね。良かれと思ってやっているうちは許容範囲かなと思います。ただそれにしても、それは「あなたの親心」であって、他の家庭にはそこなりの親心があるということはわかってほしいと思います。

I:そうですよね。自分として「正しい」と思うことをしていても、それが誰にとっても正しいとは限らないわけですし。それぞれが「正しい」と思って子どもと向き合っているわけですからね。

高橋先生:一点、お伝えしておきたいのは、それぞれが志向する「正しさ」にも限度があるということ。特に食べ物に関しては許容範囲を超えないように注意が必要です。たとえば、病院に来る子どもの病気でとても多いのが食物アレルギーですが、アレルギーを恐れるあまり、子どもに与える食事のレパートリーをむやみに制限してしまうママ・パパがいるんです。あれもダメ、これもダメと。結果、子どもが重い栄養失調になることがあります。そうなると親心も仇(あだ)となりますね。

I:以前、行きすぎた健康志向の人を揶揄(やゆ)する「健康のためなら死んでもいい」というパワーワードが一部で話題になったことがありましたが、子どもに対してそれをやってしまうと問題がありますね。

高橋先生:そうなんです。親が子どものためによかれと思ってしたことでも、それが極端に偏ったもので、子どもの心身の健康を脅かすものだったら、それはもはや「虐待」です。ところで以前、自然派のママに「マクロビ」という言葉を教えてもらったことがあります。お子さんは命にかかわる拒食症でした。僕が「初めて聞きました」と答えると、信じられないという顔で「穀物や野菜などをベースとした食事法ですよ」と説明してくれたんです。その上で、医師であればそうした「正しい食事」を子どもにも与えるように指導すべきじゃないですか? と問いただされたんです。僕は「どっちでもいいと思います」と答えたんですよ。栄養が極端に偏るとか、それこそ虐待と受け取られかねないほどの食事制限を無理に子どもに課すような場合を除けば、食事の内容や方法の選択は個人、つまりご家庭やお子さんの自由であるべきです、と。ちなみに、そのお子さんの問題は何を食べるかではなく、なぜ食べられないのか、だったわけです。

I:相談されたご本人からすると、マクロビは正しい食事であり、だからこそ子どもにはそうしたものを与えるべきだと思われていたけれども、先生からすれば「どちらでもいい」というわけですね。

高橋先生:ええ、実際にどちらでもいいですから。どちらでもいいことは世の中にいっぱいありますよね。特に日本の社会では、正しいことは一つであるべきという考え方が根強いそうです。でも、世の中に正しいことはいっぱいありますよ。だから面白いし、いろいろ迷ってしまう。複数ある正しいものの中から、自分が好きなもの、信じられることを選んでいるだけで、自分の“答え”が唯一の正解ではないわけです。子育てでは特にそのことが当てはまると思いますね。逆に言うと、他のご家庭が、それも多くのご家庭が自然にやっていることが容認できないと感じだしたら“赤信号”かもしれません。そのうち、(自分基準の)正しさに押しつぶされるかもしれません。

I: 正しさの呪縛ってやつかもしれませんね。それを考えると、子どもの社会性を育む上で問われるのは、親の社会性であり、より高いリテラシー(複数の選択肢の中から自分で選ぶ力)なのかもしれませんね。

高橋先生:そう思います。でも、安心してほしいとも思うんです。子どもを思う親の気持ちに嘘はありません。わが子のためと思って一生懸命わが家なりのルールを考えている親心が悪いはずはありませんから自信を持ってください。ただ、もしわが家のルールと世間のルールの違いに疑問を抱いたり違和感を感じているのであれば、自分だけの正義に閉じこもるのではなく、少しでいいから周りの様子も見てください。世間一般のルールや常識と冷静に比較してみて、自分たちの考えが大きく逸脱しているようであれば、修正が必要かもしれない。そんなに“正しさ”にがんじがらめになる必要はないのです。力を抜いて子育てしても、あなたの愛情は子どもに伝わります。その親心、少し緩めても、親心に変わりなし、ですよ。

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小さな子どもたちまでマスクを付け、ソーシャルディスタンスを守っているこの時世だからこそ、多様な価値観を認め合う社会性が大切になっています。わが家なりのルールは悪いことではないけれど、子どもに過度な負荷をかけていないか、様子を見ながら伝えていくのも親の役割かもしれませんね。

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