最後はわが子の名前をたくさん呼びたいから、音の響きにこだわったという静香さんのエピソードです。静香さんが「名前を呼ぶこと」にこだわったのには理由があります。それは数年前に亡くなったお父さまが、病状が悪くなるにつれて「静香」と呼ぶことができなくなってしまったから。
「兄の名前は言えたんですよ。でも私の名前は難しかったみたいで・・・。あの時名前を呼んでもらえなかった悔しさが、わが子の名前をたくさん呼びたいという思いにつながっていると思います」(静香さん)
「親に自分の名前を呼んでもらえるのも幸せのひとつ」と痛感した静香さんは、妊娠がわかった時「とにかく呼びやすくて、響きのいい名前にしよう」と考えました。
音を重視していくつも考えた中で候補に残ったのは、「ヒナノ」と「コトハ」のふたつの名前。何回も声に出して言っているうちに、自然と「ヒナノ」に愛着がわいてきたという静香さん、「最初は漢字にはあまりこだわりがなかったので、読みやすい『雛乃』にしようかなと思っていた」のだそうです。
ところが出産予定日が近づくにつれ、新型コロナウイルス感染症は世界中に拡散し、猛威をふるうようになっていきました。
「日本でオリンピックが開催され、明るい話題でいっぱいになるはずだった2020年が、今まで想像もしたことがなかった暗い年になってしまった。これは大きなショックでしたし、子どもの将来は大丈夫かなと不安になりました」(静香さん)
そこで赤ちゃんの名前の漢字は「明るい未来とわが子の幸せを願う気持ちを表すものにしたい」と考えるように。
「いくつ候補を挙げたか覚えていないぐらい、夫といろいろな漢字を出し合って考えました。そしてき決めた名前は『陽望(ヒナノ)』。希望に満ち溢れた人生になるように願って、太陽のあたたかさと明るい将来を表す漢字を組み合わせたんです」(静香さん)
漢字の画数にこだわりはなかったけれど、お母さまからは「調べてみたら?」と提案されたとか。お兄さまは、ひらがなにしたり、ローマ字表記で眺めたりといろいろな書き方で見栄えを検討して、「並びがいいね」と高い評価をくださったそうです。あたたかい家族愛も感じる名づけの光景ですね。
ここで上記3人のママ以外に、コロナで名づけに影響があったとアンケートで答えた方のコメントの一部をご紹介しましょう。
【男の子】
・奏翔(カナト)
コロナに負けず、たくましい印象の響きにしたかった。
・良颯(ツカサ)
コロナの中、無事に生まれてくれたことに感謝し、今後は良い風が吹いてほしい。
・大也(ダイヤ)
本当は「太陽」という名前をとても気に入ってつけようかと考えていたのですが、コロナをイメージされるかと思い控えました。
【女の子】
・うらら(ウララ)
早く落ち着いた世の中になってほしいと、「うららか」という言葉から「うらら」と名づけた。
・唯生(ユイ)
字画がよく、コロナでたくさんの方が亡くなった年なので、長く生きられるということを意識して、生きるという字を使った。
・英麻(エマ)
様々な情報が飛び交う中、コロナに打ち勝ち生き抜くには、正しい情報を読み取り、自分で考えることが必要だと考え、その思いを名前に込めた。
最後に2020年度の「名づけ調査」の概要を紹介します。
(調査概要)
アンケート調査にご協力いただいた方々の性別、現在の状況、年齢構成は以下の通りです。
(回答者プロフィール)
今年は名づけの主体、胎児ネーム、キラキラネームなどについての例年の設問に加えて、前章でご紹介したコロナ禍の名づけについての質問をさせていただきました。
最後に「お子さまの名前を決める際に意識したことや、気をつけたことを教えてください」という問いについての4年間の回答の割合の変化を比較した下のグラフをごらんください。
「字画がよい」や「キラキラネームを避ける」など上位5項目は目立った変化がありませんが、6番目の「音の響きがよい」は2017年度と比べると大幅に減少しています。「他の子どもたちとかぶらない」、「日本らしい名前」も減っていますが、反対に「グローバルを意識した名前」と「ジェンダーレスな名前」は増加傾向にあるようです。
わが子の健やかな成長を願う親心はどんな時代でも変わることはないけれど、名づけの意識は世相や社会の変化を反映しながら変わっていくものですね。これからも名づけの変化から読み取れる子育て世代の意識の変化に注目していきたいと思います。