高橋先生:ところでADHDの場合、必要であれば治療の一部としてお子さんに薬を飲んでいただく場合もあります。自閉症は基本的には薬はないのですが、ADHDに関しては薬を使うことで劇的に症状が改善することがあります。いい意味で別人になったように改善するので、親御さんは驚かれますね。
I:ADHDは薬で治るんですか? ただ、そこまで効く薬だと、不安に感じる親御さんも多いでしょうね。
高橋先生:ですので、事前にきっちりと説明をし、子どもにも親御さんにも納得していただきます。私が薬を勧めるのは、それによって「この子は救われるだろうな。人生が変わるかな」と思える場合です。学校の先生も匙を投げかけている、味方だったお母さんも疲れて限界に来ている、つまり誰も味方がいない状態、そして、このまま放っておくといじめの対象になる危険、徐々に自己肯定感が損なわれつつある危機的状況。それらを踏まえて、最終手段として薬を処方します。ADHDの診断が間違いなく、症状も強い子の場合、薬を使うことでほぼ確実に症状が改善し、日常生活が一気に好転することも多いです。過剰診断・過剰治療は絶対に避けるべきですが、中には薬物治療が必要なお子さんもいることは事実です。
I:なるほど。依存症というか、薬がないと生きていけなくなる、なんてことはないのでしょうか?
高橋先生:そうならないように、処方する際には十分注意します。じきに飲まなくても問題ないようになる子が大半ですが、なかには大人になっても飲み続けている方もいらっしゃいますし、いずれにしても服用期間は年単位ですので。そもそもライセンスを持っている特定の医師しか処方できないので、ネットの噂話で指摘されるような「子どもが薬漬けにされる」といった心配は不要と思います。親御さんも、そしてお子さん自身も、なぜ、何のために、いつまで薬を飲むのかをしっかり理解しておくことが不可欠ですね。
I:病名がつかなくても、お子さんにADHDに限らず発達障害の傾向が強くある場合、親御さんはどう接すればいいのでしょうか?
高橋先生:どのタイプの発達障害かによって、また、問題の程度によって対応も変わってきます。たとえば、自閉傾向のあるお子さんであれば環境整備、つまり日常生活を本人に合わせてあげることです。何事もいつもやっている手順に従って進むようにお膳立てするなど、いわゆるルーティーンを守って生活できるようにしてあげることが大切です。
I:あとは周囲の大人の理解も大切ですよね。
高橋先生:その通りです。そういう子がいることが全てのトラブルの原因であるかのようにいう大人が、もしいるのだとすれば、とんでもないことです。周りの大人がその子の傾向を理解して、温かく接してあげてほしいと思います。
I:排除するのではなく包摂することが大事…まさに社会そのものですね。
高橋先生:はい。子ども、大人関わらず、私たちの社会は多様性に溢れています。いろんな個性があるからこそ社会はその存在価値がある。ADHDの子もいれば、ADHD気味の子もいるし、そうじゃない子もいる。そういう子たちのお陰で社会はいきいきと活気にあふれているんです。
親御さんにお伝えしたいのは、たとえわが子がADHDと診断されたとしても、あなた方の育て方に問題があったわけではない、ということです。ご自分を責めたりしないでいただきたい。多動傾向や衝動性の強い子どもさんのお世話をするのは人一倍の気力と体力が必要です。元気すぎるお子さんを「困ったな~、でも可愛いな~」と温かく見守り、育てておられお母さん、お父さんは本当にすごいと僕は思います。
I:子育てはただでさえ大変ですからね。育てづらいと思っても、子どもの行動の傾向を正しく把握して、どう対応すべきか考えながら、その子に寄り添うことができれば、親子の絆は強くなるし、ママ・パパの気持ちも楽になりそうです。本日は貴重なお話をありがとうございました。