【小児科医・高橋孝雄の子育て相談】
もしかしたらADHDかも。「育てづらい子」との向き合い方

小児科医 / 高橋孝雄先生

診察の主役はもちろん子どもですが、親との対話も不可欠です

I:そこのグレーゾーンの中には、発達障害もしくは、それに限りなく近い子と、単に育てづらいとママ・パパが感じているだけの子がいるということですね。わが子をどう捉えるか、どう見るか、ママ・パパの見方で変わってくるのかもしれませんね。

高橋先生:小さい子どもは、そもそも落ち着きなく動き回るものです。その中で「病気」として特別な配慮が必要になるのは、保育園や家庭など、2箇所以上の場所で同じような問題があり、そのために日常生活に支障をきたしている場合です。家庭ではいい子だけど、保育園では言うことを聞かず大変、という場合は、基本的にはADHDとは判断されません。

診察の主役はもちろん子どもですが、親との対話も不可欠です

高橋先生: 一方で、ADHDと診断できないまでも、多動、衝動、うっかりなどの問題が多い子どもたちも確かにいますね。そのような場合、僕としてはあまり深刻にとらえない方がいいと思っています。もちろん大変なのはわかりますが、病気ではない、という認識も大切です。

わが子の問題をどうとらえるかには、親の気持ちの持ち方、感じ方も大きく影響します。親御さんが「うちの子はこれでいいんだ」と肯定的に納得することができれば、大半の場合、それまで感じていた「育てづらさ」がおおいに軽減されるのではないかと僕は思っています。

I:なるほど、元気で活発に動き回っていると考えるか、落ち着きがなく異常だと考えるか、ということですね。前者なら何の心配もいりませんね。

高橋先生:ちょっと多動気味でも、多少うっかりが多くても、成長するにつれて問題が解決するケースは少なくありません。それより僕が気になるのは、わが子の育てづらさを嘆く親御さんです。中には、期待する子ども像と実際のわが子とのギャップを受け入れられないことで育てづらさを感じる人もいるんです。

もちろん育てづらいというのは主観的なものでいいし、さらに医学的に、客観的に見ても、確かに育てづらいだろうな、と判断される場合もある。でも一方で、親御さん自身が持っている理想的な子どものイメージ、期待する子ども像とのズレから育てづらいと感じているケースもとても多いと思うんです。少し酷な言い方にはなりますが、親の方に“問題”があるパターンですね。

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I:育てづらいと言っている親の方に“問題”がある――先生がそう認識されたとき、それを親御さんにはっきりと指摘されますか?

高橋先生:いや、しません。はっきりと「お子さんには問題はありません」とお伝えします。「この子をADHDと呼んだら、本当にADHDに苦しんでいる子どもたちに叱られますよ」って。一方、育てづらい傾向があることには同感し、お母さん、お父さんがここまでがんばって育てて来られたことをねぎらいたいと思います。育てづらいと感じているのは、実はお子さんの問題ではなく、あなたが親として人一倍がんばってきた証なんですと。「よくここまでがんばって育ててきましたね。あなたはがんばって育てたのであって、子育てが困難な子を抱えて苦しんできたというわけではないんですよ」と。それで、抱えていた悩みが少しでも軽くなればいいなと思います。

I:話は多少脱線しますが、たとえばお医者さんがADHDか否かを判断する際に、「個人差」はあるんでしょうか? つまりある先生はADHDではないと診断したけど、別の先生はADHDと判断するようなケースです。

高橋先生:それは結構あります。診断の基準をもとにして点数のようなものをつけるのですが、それはあくまで参考データであり、最終的な診断は医者の見立てで決まります。なので、どちらとも言えない“グレーゾーンの子”の場合、ADHD と診断する先生もいれば、しない先生もいるということです。

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I:親御さんからしたら病名をつけてもらったほうが楽になれる人と、そうではない人、大きく分かれたりするのかなと想像してしまいますが、実際はどうでしょうか?

高橋先生:おっしゃるとおりです。診察ではもちろん主役はお子さんですが、むしろ親御さんとの対話をすごく大切にしています。診察時間の大半はお母さん、お父さんとの会話に費やし、親御さんがその子の問題をどう表現するか、どういう表情で話すかにも気を配りながら、一体何に悩んでおられるのかを感じ取ることに専念します。その上で、医師としてどういう“道筋”を描いていくことがその子やご家族を幸せに導くのかを見極めます。

I:小児科の先生は、そういうことも考えながら診断を下しているのですね。

高橋先生:お母さん、お父さんも追い詰められていますからね。育てづらさを感じながら、ほんとうに苦労して子育てをされるなかで、独特な親子関係を築いていることもよくあることです。私の場合、これはちょっと普通じゃないな、この親子は幸せとは言えないかもしれないと感じたら、そこをまず解きほぐすことから始めるようにしています。どの行動パターン、思考パターンがなぜいけないのかを解きほぐしていき、問題を整理して単純に考えるように促します。

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