発達心理学の専門家に聞いた「イヤイヤ期」の子育て

発達心理学の専門家に聞いた
「イヤイヤ期」の子育て

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「魔の2歳児」とも呼ばれるイヤイヤ期。口を開けば「イヤ!」と言う小さなわが子に振り回されると、ママ・パパのストレスは募りますね。

この時期になるとどうして「イヤ!」が始まるのでしょう。ママ・パパはわが子の「イヤ!」にどう対応すればいいのでしょう。白梅学園大学で子どもの心の発達を研究している佐久間路子教授に伺いました。

 

佐久間 路子先生

<プロフィール>
佐久間 路子(さくま・みちこ)
お茶の水女子大学大学院卒 白梅学園大学 子ども学部 発達臨床学科及び白梅学園大学大学院 子ども学研究科 教授。臨床発達心理士。研究テーマは「子どもの自己理解や心の理解の発達」。著書に「乳幼児のこころ(有斐閣)」「生活のなかの発達心理学(新曜社)」「子どもの『こころ』をのぞいてみる(ぎょうせい)」などがある。一女の母。

 

「イヤイヤ」は成長の証です

「イヤイヤ」は成長の証です

担当編集I(以下、I):本日は先生にイヤイヤ期について伺い、はじめて経験するわが子との葛藤をどう乗り越えたらいいのかなどについて教えていただきたいと思います。まずはイヤイヤ期の始まりについてです。個人差はあると思いますが、おおよそ2歳ぐらいからと考えていいのでしょうか?

佐久間先生:1歳後半から2歳ぐらいまでの間に始まることが多いです。「イヤ!」が出てくるのは、いろいろな事が少しずつ自分でできるようになってきた表れでもあります。例えば、最初は歩けるだけでうれしかった赤ちゃんが、次第に自分でいろいろなところに行ってモノを触れるようになり、もっと脚力がついてくるとよじ登ったり、隙間に入ってみたりするわけですね。とはいえ、まだ思い通りに体を動かせるわけではないし、自分の気持ちをうまく言葉にできない…そうした、もどかしい気持ちが「イヤ!」という言葉になるとも言えます。

I:確かにその年頃の子どもは、昨日まではできなかったことが突然できるようになったりするものですが、まだ出来ないことも多いですよね。

佐久間先生:それに「自分」という存在に気づくということも関係していると言われています。自己認識とか自我の芽生えなどと呼ばれているのですが、他者との違いがわかってきて、自分はこうしたいという欲求が出てくるんです。

「イヤイヤ」は成長の証です

I:成長の過程でみんなが通る道ということでしょうか。それでも「イヤ!」が強くて、長く続く子と、ほとんど気づかないまま終わってしまう子もいますよね。親としてはできるだけ軽く乗り越えられないものかと考えてしまうのですが…。

佐久間先生:私は発達心理学を研究していて、イヤイヤ期の子どもとの関わり方も学んでいますけれど、私の子どもにもイヤイヤ期はありました。子どもが言うことを聞かず道端に寝転がって親を困らせるということを知識として知っていても、はじめて自分の子の「イヤ!」に直面した時は「あ、きた」と思いつつ、私だってちょっと困惑したものです。

I:先生でもそうなら、仮にわが子のイヤイヤがひどいものだったとしても、もう受け入れるしかないのですね(苦笑)。

佐久間先生:そもそもイヤイヤを抑えたり、軽くする必要があるのか、というのは考えた方がいいかもしれません、発達心理の概念では、イヤイヤ期は自我が芽生え、自己主張が始まる大切な時期。親としては大変ですが、子どもの心の成長として、プラスの意味もあるんですよね。

I:なるほど。イヤイヤ期は成長発達の段階で必要不可欠で、正常な反応ということですね。

佐久間先生:子どもの「イヤ!」に親が「なんでそんなこと言うの?」「なんでママ・パパのいうこと聞かないの?」と腹を立ててしまうと、親も子も疲れて辛くなっちゃいます。だからといって、子どもの言うことを「そうね、そうね」と何でも聞くのはちょっと違うと思うし。

私の場合は「あら、こんなことで騒いでる」なんて、ちょっと引いて面白がることで気持ちを切り替えるようにしていました。深呼吸でもいいんです。子どもに理不尽な「イヤ!」を言われた時のちょっとしたクールダウンの方法を見つけておくと、親も楽になるのではないでしょうか。

子育ては試行錯誤の連続。賢く立ち回る方法はありません。

子育ては試行錯誤の連続。賢く立ち回る方法はありません。

佐久間先生:子どもの心の発達にとっては、自分でやりたいとか、自分がやるんだという意思を持ち、それにチャレンジして達成感を得るのは大切なことです。でもまだ経験が少ないので、親の考えや一般常識からずれた行動になることだってあるんですね。例えば、雨の日に長靴を履いていたら、みんなに「かわいいね」と言われて、子どもはすっかり気に入ってしまって、晴れた日でも履きたいと思うのですが、「それは雨の日に履くものよ」と親に止められるわけですよ。

I:長靴のお話、まったく同じことを自分の娘に、かつて言ったことがありますね。天気のいい日に雨靴を履いて歩いたら、暑いし動きにくいことなのでつい言ってしまったんです。ただ、それは本人が経験すればわかることなので、今思うと、そんなこと言わなくてもよかったかなと。

佐久間先生:イヤイヤ期に近づくと子どもはだんだん、自分の「意思」が出てきて、こだわりを主張するようになる。そうなると必然的に、親に止められる経験が日常生活の中ですごく増えてくるんですね。それまでは親と思いがぶつかり合うことは少なかったのに “自分はこうしたい”という意識が出てくると、親やまわりの人との交渉が必要になります。お子さんの「イヤ!」の内容によってはその気持を汲み取って「どうしたいの?」と一緒に考えることができるといいですね。

I:自分の好みを主張する機会になるんですね。「イヤ!」にもいろいろありますからね。

佐久間先生:他の子のおもちゃを取りあげてはいけないとか、道に飛び出してはいけないとか、生活していく中で守るべき社会のルールや安全に暮らすための約束事を破るようだったら、子どもが好きにやりたがっても、「それはしてはいけないこと」と親が丁寧に教えてあげなくてはいけません。

I:それはそうですね。

佐久間先生:公園の遊具を登ってみせると「上手ね」と褒めてもらえるけれど、ダイニングテーブルによじ登ると「ダメよ」と叱られるというように、していいこと、いけないことが場所や場面によっても変わることも覚えていかなくてはいけない。イヤイヤ期の自発的な行動がいろいろな経験に繋がって、子どもは多くのことを学ぶのだろうと思いますよ。

子育ては試行錯誤の連続。賢く立ち回る方法はありません。

I:イヤイヤ期の経験はそれからの行動の規範になるんですね。

佐久間先生:そういうことです。あとは、やりたいことが増えてくるこの時期にたくさんの経験をさせてあげるために、「ダメよ」、「あぶないよ」と言わなくてすむ環境を整えてあげることも大切でしょう。子どもがすごす場所には危ないもの、触られたくないものを置かないとか、窓はちゃんとロックしておくとか、あらかじめ配慮しておけば子どもがやりたいことを思う存分やっていても、親は余裕を持って見守ることができるのではないでしょうか。

I:なるほど。ママ・パパが「ダメ」、「やめなさい」と言うから「イヤ!」と返ってくることもあるということですね。それなら行動を制限しなくていい環境にすればいいと。それはイヤイヤ期対策のいいヒントになりそうです。

佐久間先生:以前、親の会に参加させてもらい、0~4歳までの子どもを育てている方たちとお話しした時に、イヤイヤ期をまだ経験したことのないママ・パパたちがイヤイヤ期をすごく怖がっているという印象を受けたことがあります。心配な気持ちはわかりますが、あまりに情報が入りすぎて、現実を見ることが難しくなっているようにも見えます。

I:確かに、最近は子育ての情報も溢れています。加えてSNSでスマートに子育てをしている方の発信を目にすると、「こんな上手にやっている人がいる」とうらやましく思うことも。

佐久間先生:研究者仲間ともよく話すのですが、スマートな子育てなんて幻想ですよ(笑)。イヤイヤ期に関わらず、子育てなんて「ぐちゃぐちゃ」が当たり前。その経験を通じて、親も子どもも育っていくものです。子どもがいつも扱いやすい子じゃないからと言って、「うちの子は大丈夫かな」なんて心配しなくてもいいのではないでしょうか。

そもそも子育ての目標は、心豊かに楽しい人生を送る人になってもらいたいということで、親の言うことを聞く子どもを育てようということではないはずです。子育ては理屈では割り切れないからこそ、その親子にしかわからない強い絆ができるものです。

「イヤ!」と泣く時は、気持ちがおさまるまで見守ってあげましょう。

「イヤ!」と泣く時は、気持ちがおさまるまで見守ってあげましょう。

I:イヤイヤ期が終わるのはいつ頃でしょう? 言葉で気持ちを伝えられるようになったら終わりますか?

佐久間先生:言葉がうまく操れるようになることも必要でしょう。また3~5歳ぐらいで脳の機能が発達してくることが、イヤイヤ期の出口と関係があるとも言われています。イヤイヤ期が強くて、「お名前は?」と聞かれても「イヤ!」と答えるほどの子どもでも、自分の気持ちを抑制したり、切り替えたりと心のコントロールができるようになるといつの間にか終わることが多いですね。

I:一般的なイヤイヤ期をすぎた後も、ずっとイヤイヤが続いているようなケースもありますよね。

佐久間先生:そうですね。もし「終わらないな」と感じるなら、一日を振り返ってどういう時にイヤイヤが起きたのかを親御さんは思い返してみたらどうでしょう。子どものこだわりや親の思い入れなどがすごく強くて、ぶつかりがちなポイントがあるのかもしれません。それがわかれば、子どもにどうしたいか聞いたり、親がどうしてほしいのか話したり、一緒に対応を考えることができますよ。

I:ところで、イヤイヤ期の子どもがいるママ・パパが一番困るのは、外で「イヤ!」と泣き叫ぶ子どもをどうしたらいいかということなのですが、対処法はありますでしょうか?

佐久間先生:場所やその時の状況が許すのであれば、子どもが落ち着くのを少し待つという方法がいいだろうと思います。でも親側の余裕や、周りの迷惑も考えるとなかなか難しいでしょうから、結局、泣く子を抱えて連れて行くということになりますかね。その時に無言で抱き上げるより、「ここで泣くとみんなに迷惑だし、お母さんも困っちゃうから違う場所に行こうね」などと説明しながら連れて行くと、その時は聞いていないようでも、少しずつ理解するようになるのではと思います。

I:怒るというのは効果的ではないですか?

佐久間先生:強く叱るということですか? 子どもを怖がらせて黙らせるのはその時は効いても、怖くて嫌だったという記憶しか残らないでしょう。どうして自分が叱られているのかということに気づかなければ意味がありません。

危険なことをした時は強く叱らなければならないけれど、自分を主張するために「イヤ!」を繰り返すわが子に感情的になって声を荒げてしまったことは私にもありました。後で反省して、よく考えてみると、仕事がすごく忙しかったり、夫と言い争いをした後だったり、子どもの「イヤ!」だけではない理由があったものです。イヤイヤ期のわが子に落ち着いて向き合うためには、親の気持ちに余裕がなければ難しいかもしれませんね。

ママ・パパのストレス解消も大切。相談できる場所を見つけましょう。

ママ・パパのストレス解消も大切。相談できる場所を見つけましょう。

I:叱り方にママ・パパのメンタルが影響するのはある程度仕方がないのかなと思いますが、理性的に対応できた方がいいですよね。

佐久間先生:特にワンオペ気味の親御さんはどうしても追い詰められてしまいがちです。子育て相談窓口などで悩みを聞いてもらうだけでも、気持ちが軽くなりますよ。お子さんに余裕を持って関わるためにも、そういう場所を覗いてみたらどうでしょう。

I:自治体などに子育て支援の相談窓口があるのは知っていましたが、特別な事情のあるお子さんだけが対象かと思っていました。イヤイヤ期の子どもを育てているママ・パパでも相談できる場所があるんですか?

佐久間先生:ありますよ。区報とか市報とかに子育て相談などについての情報が出ていますから、目を通していただきたいです。保育園などの子育て関連施設でも、そこに通っていない子どものことでも相談に乗ってくれることがあります。そういう場所でママ・パパ同士が悩みを話し合ったりするだけですごく楽になったという声もよく聞きます。

I:意外と子育て世代を応援する仕組みがあるんですね。

佐久間先生:短時間でも理由を問わずに預かってくれる施設もありますから、たまにはひとりでお買い物に行ったりとか、少し息抜きをしてもいいんです。イヤイヤ期のような難しい時期の子どもには、親御さんが気持ちに余裕を持って接するのも大切なことですよ。

I:そうですね。ママ・パパが笑顔で相手をしてくれたら、「イヤ!」も少しは治まってくるかもしれませんね。心の発達に大切な時期だということも忘れずに、小さなわが子の成長を見守っていきたいと思います。先生のお話を今後の子育ての参考にさせていただきます。本日はありがとうございました。

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