高橋先生:そうは言っても生物学的には、やはり男性と女性は異なる点が多いのはご存知の通りです。それは、能力差があるということではなくて、個性、特性が異なっている、ということです。この違いは生物として非常に重要なものであるため、遺伝子のシナリオによってある程度確保されています。言い換えると、育て方で女の子っぽくなる、男の子っぽくなるという話ではないんですね。
I:ほとんどの場合、遺伝子のシナリオに従って、心もからだも女の子は女の子に、男の子は男の子になっていくということですね。
高橋先生:そう、妊娠中の子宮内環境やお母さんの行動が影響することもまずありません。
I:でも最近は、中性的な子がすごく多くなっていますよね。あれは時代がそうさせているのだとは思いますが、一方で生物学的な観点から、性別がわかりにくい子が生まれる割合が増えているということはないのですか?
高橋先生:それはないですね。精子の数が減っているとか、ダイオキシンの影響かとかそういう議論はありますけど、人類の長い長い歴史の中のわずかな期間で、急に男性が女性化、女性が男性化みたいなことはないでしょう。もっとも江戸時代の男性に比べると現代の男性は女性っぽくなった、と言われるとそんな気もします。この令和の時代にお侍さんみたいな男たちがいたら大変ですよね(笑)。ご指摘のように、中性的な男女が増えているのは、社会や文化の変化だと捉えたほうが自然です。社会の意識が高まって多様な生き方を認められるようになり、性格や生き方の違いを乗り越えてお互いを尊重し合う風潮が生まれた結果、自分らしさを素直に表現ができる人が増えてきたということじゃないですか。
I:ちなみに、生物学的に明確な男性が、文化的背景から真ん中に寄っていくことというのは、驚くべきことではないんですか?
高橋先生:何をもって「明確な男性」かによりますけれど、要するに見た目が男性でも、非常に女性的な考え方、振る舞いの人はいますよね。もしかしたら、見た目が明確な男性の人が女性的な考えを持つことがかつては憚られたけど、今ではそうでもなくなり、将来的にはなんの躊躇いもなく女性的な考えを主張できるようになるかもしれない。そして、そういう未来はとても望ましいと思います。自分自身がどちらの性だと認識しているかを“ジェンダーアイデンティティ”と呼ぶのですが、それを素直に受け入れることは人が幸せに生きる上ですごく大切だからです。