【小児科医・高橋孝雄の子育て相談】
ジェンダーレスとは個性を大切にすること

小児科医 / 高橋孝雄先生

ジェンダー平等が叫ばれる昨今。SDGs(持続可能な開発目標)にも「ジェンダー平等を実現しよう」と掲げられ、ジェンダーレスな時代と言われるようになりました。子育てをしながら、無意識のうちに「男の子はこうあるべき」「女の子こうあるべき」というイメージや役割分担をわが子に押し付けたりしてないか、なんてことも気になったりする今日このごろ。

今回のテーマは「ジェンダーレス時代の子育てのあり方」。毎度おなじみ、慶應義塾大学医学部小児科主任教授の高橋孝雄先生に伺いました。

高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 

専門は小児科一般と小児神経
1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

男らしさ、女らしさは一人ひとり違います

担当編集I(以下、I):最近、ジェンダーレスという言葉をよく耳にするようになりました。ジェンダーレスは、“男はこうあるべき”、“女はこういうもの”という固定観念から抜けだして真の男女平等を実現しようという概念、とされています。

でも子どもを育てていると、女の子はごっこ遊びが好きで、男の子は電車に興味を持つというように、性別による傾向を強く感じることがあります。

高橋先生:性別による心や体の違い、つまり性差は当然ありますよ。男性と女性ははっきりと異なる特性を持っていますからね。でも、性差の“差”は差別の差ではありません。拙著『子どものチカラを信じましょう』にも書いたのですが、赤ちゃんは多くの場合、遺伝子のシナリオに従ってからだが作られ、脳が発達します。つまり、男の子らしさ、女の子らしさは胎児の時にある程度決まっています。

ただしそれは赤ちゃんによって幅もあるし、例外もあります。受精卵になった時点では、性染色体がXY(男性)であろうと、XX(女性)であろうと、基本的な構造は同じです。Y染色体を持つ胎児ではSRYという遺伝子の働きがONになって子宮や膣が作られないようにストップがかかり、また、代わりに作られる精巣から出る男性ホルモンのシャワーを浴びて男性になるための心の準備も始まります。その後いくつものステップを通過して、男性になっていくんですね。

I:人間の基本形は女性、というお話でしたね。

高橋先生:ところが、男の子、女の子になる過程で、予定外の事態が起きることがあるんです。XY染色体を持った胎児でも男性ホルモンが十分に分泌されなかったとか、反対にXX染色体を持っているのに男性ホルモンが出すぎたとか。結果として、生まれた時に女の子か男の子かの判断が難しい場合があります。そういう場合は、慌てて性別を決めずに、染色体のチェックや性腺(卵巣や精巣)があるかどうか、性ホルモンの分泌具合などを調べ、さらに、将来妊娠できるか、あるいは外性器の手術をするとしたらどちらにするのが近道かなど、いろいろな要素を考えあわせて、最終的には両親に性別を決めてもらうことになります。将来、自分らしく生きていけるように、生まれてきた赤ちゃんの性別を正しく見極めるのは、すごく重大な医学的判断なのです。

I:想定外の変化…つまり遺伝子のシナリオが何かのはずみで変わってしまうことがあると?

高橋先生:そういうことです。そのような極端な場合はさておき、男性的か女性的かといったことに影響する因子は沢山あって、複雑な仕組みが働いているんです。裏を返せば、男女の差は想像するよりずっと微妙なものであるとも言えます。

I:でも生物学的には、染色体がXXなら女性で、XYとなれば男性なんですよね? 

高橋先生:いや、胎児期の性ホルモンの働きによっては、染色体がXYでも女性として生きる方が自然なこともあるし、XXでも男性として生きていくこともありえます。男性のからだを持って生まれたけれど女性として生きたいと願い、逆に見かけは女性なのにそれを息苦しいと感じる人も現実にいるわけですから。

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