「フェムテックの本丸は“月経問題”」 産婦人科の権威がそう語る理由

フェムテックの浸透は教育から

フェムテックの浸透は教育から

吉村先生:フェムテックには期待しています。しかし新たに生まれたテクノロジーを生かすも殺すも「教育」次第だなと感じています。

I:どういう意味でしょうか?

吉村先生:たとえばピルが浸透しないのも、それがどういう役割を持ち、女性のからだやライフスタイルにどんな効果をもたらすか、という正しい知識を持っていないから、当事者はピルを使用しようとも思わないし、社会もそれをサポートしようとしないのかなと思っています。

日本では思春期を迎える子どもたちに性や生殖についての教育をする機会がほとんどありません。正しい知識を身につけていないから、偏見や間違ったタブーから抜け出せていない。これは大きな問題であり、僕も長く産婦人科医をしてきて、この状況に責任を感じてもいます。

I:「知る」ことは何事においても大切ですが、それは性や生殖に関することについても同じであると。

吉村先生:そうなんです。そして知るべきは女性だけでなく、男性も同様です。むしろ男性がもっと知らなければいけない。男性も、たとえば月経に関する知識を学んでいれば、パートナーとの絆はもっと深まるだろうし、一緒に働いている女性に対しても自然と思いやりが生まれるでしょう。

そういう意味では、男性側に理解がないと、フェムテックは生きてこないとも言えます。女性が自分のからだについて話し始めた今だからこそ、男性も変わらなくてはいけないでしょうね。

I:急速に変化するテクノロジーに追いついていくだけの「意識の変革」が男性には必要かもしれませんね。変革というと大げさに聞こえますけど…。

吉村先生:いや、それくらいの意志がないと変わらないのではないでしょうか。医療もめざましく進化しています。昔は低用量ピルで月経をコントロールすれば子宮内膜症だけでなく、子宮体癌や糖尿病の発症までを抑えることができるなんて誰も考えていませんでした。思春期や性成熟期の女性の月経を管理することが、更年期、老年期に至る女性の一生の健康の維持につながってくることが分かってきて、医療は変わってきたんです。その変化を男性も知ってほしいし、知らなければならないと思います。

I:今回、お話を聞く前は、フェムテックは、どこかの「誰か」が新しいガジェットやサービスを開発して、それらが女性を幸せにしてくれるものだとなんとなく思っていましたが、それじゃ全然ダメですね(苦笑)。

吉村先生:ダメです(笑)。繰り返しになりますけど、フェムテックを活用するために重要なのは、男女問わず性と生殖に関する正しい教育です。自分のからだ、異性のからだについて知ることは人間の基本について知ること。フェムテックは素晴らしい進歩だけれど、基本的な知識がなければ十分に生かすことはできないのではないかなと思っています。教育の大切さは、これからの大人になっていく子どもたちのためにも考えていたいですね。

I:フェムテックは女性の“宿命的な悩み”の宿命を書き換えることができる可能性を持ったもの。だからこそ女性の未来のために、上手に活用していきたいですね。今日もいいお話をありがとうございました。

吉村泰典(よしむら・やすのり)先生のプロフィール
慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医

1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

<参考資料>

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