吉村先生:まず、こちらのグラフを御覧ください。日本政策医療機構が2018年に全国の2000人の働く女性を対象に行った「女性の健康増進に関する調査」(※2)の中で、「PMS(月経前症候群)や月経随伴症状によって、あなたの仕事のパフォーマンスは普段と比べてどれくらい変わりますか?」の問いに対する回答をグラフにしたものです。
吉村先生: 元気な状態の仕事の出来を10点とした場合、最も当てはまる数字を選択してもらった結果なのですが、75%がパフォーマンス低下を訴えており、5点以下が45%もいるんです。要は半分近くの人が、月経に伴い仕事に大きな障害が出ると感じているんですね。10点は6%しかいないので、ほとんどの女性が多かれ少なかれ体調の変化でパフォーマンスが低下していると実感しているわけです。
I:これを見ると、先生が先ほどおっしゃった「フェムテックの“本丸”は月経問題をいかに解決するか」という言葉の重みが増しますね…。
吉村先生:多くの女性にとって月経は本当にやっかいなものなんです。できればなくしたい。でも、女性だから月経があるのは当たり前だと。ただ、以前の記事でも言わせてもらったように、妊娠を望んでいないのであれば、低用量ピルを正しく服用して月経を止めてしまうという選択肢もあります。
吉村先生:産婦人科医として責任を持って言いますが、この問題を解決するには低用量ピルが一番です。つまりは、月経の悩みを解決してくれる最高のフェムテックは低用量ピルだと考えます。現状、これを超えるテクノロジーはないと僕は思っています。
I:以前の記事でも紹介しましたが、欧米では女性の生活の質を向上させるために低用量ピルで月経を止めてしまうのは今や常識になっているけれども、日本ではそうなっていないことを嘆いておられましたね。
吉村先生:ええ。欧米では長年にわたって多くの女性が服用していて、安全性や効果は実証ずみだし、副作用のリスクも極めて低いとされています。でも日本での服用率はいまだにせいぜい3~5%。医師としては、女性を月経の痛みや苦しみから解放するため、または月経を起因とする多くの女性特有の病気を予防するためのフェムテックとして、もっと普及することを願っているのですが。
I:ピルに対するある種の「偏見」も普及の妨げになっているのかもしれないですね。排卵をなくしてしまうと、不妊症になってしまうのではないか、とか。
吉村先生:全くそんなことはないのですけどね。不妊症になることはないですし、むしろ子宮内膜症などの不妊につながる病気も予防できますから。ご指摘のように「ピルは避妊のためのもの」という固定観念が邪魔をしているのは否めません。