眠れなくて疲れも取れない。ストレスもたまるばかり…という方は、睡眠薬を服用することも選択肢に入れておいてもよいでしょう。妊娠中に睡眠薬を飲むのは不安だという方もいらっしゃると思うのですが、産婦人科で処方される種類の睡眠薬を、決められた量飲むのは問題ありません。
「日本では4種類の睡眠薬が認可されていますが、妊婦さんに使用されることが多いのはベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬です。ベンゾジアゼピン系の中でも、超短時間型のハルシオン、短時間型のデパス、レンドルミン、中間型のユーロジン、ロヒプノール、ネルボン、長時間型のドラールなどはよく使用されるものです。また非ベンゾジアゼピン系は超短時間型のマイスリー、アモバンが使われます。
これらの産婦人科で処方される睡眠薬は、妊娠前から妊娠初期、そして妊娠後期に至るまで継続的に使用しても、胎児への影響はないと考えていいでしょう。もちろん、用法用量を守ることは大前提ですので、服用する際はかかりつけの医師に相談するようにしましょう」
産後の不眠 長引くようなら医師に相談を
産後も不眠に悩まされる方も多いのですが、その主な原因は妊娠中に高まっていた女性ホルモンの急激な低下。このホルモンの急変に対して、からだが適応できず、自律神経が乱れて、睡眠の質やリズムに悪影響を及ぼすというわけです。
「あとはなにより子育てのストレスですね。育児不安やストレスが、不眠を引き起こすことになるし、夜泣きが始まれば、もはや物理的に眠れなくなります。これらも妊娠期間中の不眠同様に、ある程度は『仕方のないこと』ではあるのですが、妊娠期間中と違うのは、その不眠がマタニティブルースの症状である可能性があります」
「もちろん産後のメンタルヘルスの観点からすれば、不眠は“軽症”なのですが、それがより重いメンタルヘルスの問題につながることなのかを見極める必要があります。決して脅かしたいわけではないし、気にしすぎる必要もないのですが、より重い精神疾患の初期症状であることもあるので、そこはパートナーや周りの家族が様子を見て異変に気づいてあげる必要があると思いますね。おそらく本人ではなかなかわからないので」
妊娠中の不眠は多くの妊婦さんにとって共通の悩みとはいえ、眠れないのは本当につらいことですね。あまり気にしすぎず、上記でご紹介しているぬるま湯での入浴や日中の適度な運動、入眠前のデジタルデバイスの使用を控えるなど、睡眠の質を改善できそうなTIPsを取り入れてみてはいかがでしょうか。
1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。