生まれたばかりの赤ちゃんに注射を打つなんてかわいそう…。そう思う方も多いかもしれません。しかし生後2か月を超えた頃から、赤ちゃんの予防接種ははじまります。なぜ、赤ちゃんに予防接種が必要なのでしょうか? その理由をはじめ、「乳児期に受ける予防接種の種類」「接種スケジュールの立て方」「受けるときの注意」などを紹介します。
小さな赤ちゃんに予防接種が必要な理由とは
最初にお伝えすべきことは、ワクチンは感染症に対する最も効果的で安全性の高い予防手段のひとつであるということ。
そもそも感染症とは、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などの病原体が体に侵入して、症状が出る病気のことを指します。実は私たちの身の回りには、こうした病原体があらゆるところに存在しており感染症のリスクがあるのです。感染症には、軽い症状のものから、赤ちゃんがかかると深刻な合併症を引き起こすもの、時には命にかかわるほど重症化するものまでさまざまあります。
赤ちゃんは、へその緒を通じて、また母乳によってママから病気に対する抗体(免疫)をもらっています。しかしながらそれも生後3か月ごろから少なくなり、生後6か月くらいまでにはなくなります。その頃から風邪にかかるようになるのは、そのためでもあります。
(※ ただし、ママからもらった抗体で守ることのできる感染症ばかりではないので、生まれたての赤ちゃん=抗体が強いと考えるのは誤りだといえます)
いずれにせよ〈乳幼児期は、病気に対する抵抗力が未発達である。だからさまざまな感染症にかかる〉――ここはぜひ押さえておきたいポイントです。
そしていろいろな病原体に感染していくことで免疫をつけながら成長していきます。問題は、子どもがかかりやすい感染症は「軽いもの」だけではないということ。鼻水が出る、お熱が出る、くらいで済むのであれば、免疫をつけられるのだから自然のままでいい、という考えにもなるかもしれません。
しかしながら、中には確実な治療法が存在しておらず、感染することで深刻な合併症を患ったり、後遺症に悩まされることになったり、場合によっては命を落す重い感染症もあるのです。そうした感染症は、かからないように予防することが大切です。
そしてかからないため、もしくは重症化を防ぐための安全で確実性の高い方法が、予防接種というわけです。
予防接種をすると免疫がつく理由
予防接種は、病原性(毒素)をなくしたり、抑えたりしたワクチンを赤ちゃんに接種して、自然感染に比べてからだに負担をかけることなく抗体を作り、感染症にかかりにくくするものです。また、たとえかかっても軽い症状で治まります。
ただし、自然感染に比べると予防接種でつく免疫力は弱いため、接種も1回限りではなく、何回かに分けての追加接種が必要になることがあります。
接種方法によって、ワクチンは口から飲ませる「経口ワクチン」と注射で接種する「注射ワクチン」の2種類があります。
また含まれる病原体などの状態のよって、ワクチンは次の4種類に分けられます。
不活化ワクチン
ウイルスや細菌の病原性を完全になくして、免疫を作るのに必要な成分だけでつくられたもの。1回の接種 では免疫が充分にはできないため、決められた回数の接種が必要(例:ヒブ、小児型肺炎球菌、四種混合など)
生ワクチン
病原性を弱めたウィルスや細菌を用いるタイプ。からだの中でこれらが増えることにより免疫力をつけるので、自然感染に近い状態で免疫がつけられる。ワクチンの種類によっては、1回の接種で充分な免疫を作ることができるものもあるが、2~3回の接種が必要なものも。副反応として、もともとの病気のごく軽い症状がでることも(例:BCG、麻しん風しん混合など)
トキソイド
強い毒素を産生する細菌の毒素だけを取り出して無毒化し、ワクチンにしたもの。不活化ワクチンとほとんど同じ(例:ジフテリア、破傷風など)
メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン
ウイルスを構成するタンパク質の遺伝情報を接種。その遺伝情報をもとに、体内でウイルスのタンパク質が作られ、そのタンパク質に対する抗体が作られ、免疫を獲得。決められた回数の接種や追加接種が必要(例:新型コロナウイルス感染症)
任意接種は受けなくてもいいもの?
日本では、予防接種法による「定期接種」とそれ以外の「任意接種」があります。
定期接種は、国が接種を強く推奨していて、決められた月齢以内ならほとんどの自治体で、無料で受けることができるもの。任意接種は希望して個別に受けるもので、費用は基本的に自己負担になります。
こういうことから「定期接種だけ受けて、任意接種は別に受けなくてもいい」と考えてしまいがちですが、そうとも言い切れません。
たとえば2013年にはヒブ、小児用肺炎球菌、HPV(子宮頸がんなどのヒトパピローマウイルス)の3種類のワクチンが、2014年には水痘(みずぼうそう)が、2016年にはB型肝炎が、2020年10月にはロタウイルスワクチンが任意接種から定期接種となりました。任意接種から定期接種と制度上、変更となったわけですが、病気の本質や感染のリスクはが変わったわけではありません。
自己負担とはなりますが、リスクとベネフィットを考慮しつつ任意接種も検討しましょう。
同時接種って安全なの?
同時接種とは、2種類以上のワクチンを1回の通院で接種すること。現在では日本のみならず、世界中の小児科医が同時接種を勧めています。
なぜ、同時接種をする必要があるのでしょうか? それはワクチン本来の目的であるVPD(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで防げる病気)の予防を確実に行うため。
たとえば日本の赤ちゃんは、1歳になるまで接種するワクチンは種類も多く、接種回数は15回以上になります。これらを1本ずつ打とうとすると接種は間に合わず、確実にVPDを予防することが難しくなります。
同時接種の組み合わせや本数に制限はありません(※)。組み合わせでは、生ワクチン同士でも、不活化ワクチン同士でも、生ワクチンと不活化ワクチンの組み合わせでも、接種年齢になっていれば同時接種が可能です。また、定期接種と任意接種の区別も必要ありませんので医師と相談してスケジュールを組んでください。
(※)新型コロナワクチンを除く