写真 繁延あづさ
一方、同企画での対談相手である写真家・繁延あづささんは、3人の子どもそれぞれに「フォトブック」を作成しているといいます。デジタルカメラやスマートフォンで、誰でも手軽に写真が撮れるようになった昨今、データで残して管理する人も多いと思いますが、繁延さんがあえて「フォトブック」という形あるものにしようと思ったのは、どんな理由があったのでしょうか?
「私はフォトブックの〝本〟というカタチが気に入っています。我が家では、『あおいのじかん1』『あおいのじかん2』というように〝つづき〟を展開するように作っています。ですから、フォトブックはその子自身が主人公のものがたり。それを絵本棚に置いておくと、子どもは絵本を持ってくるのと同じように、自分のフォトブックを持ってくるようになりました。私自身も、膝の上で子どもがめくるように合わせて、『落ち葉がいっぱい落ちていたね』など思い出を添えるようになりました。写真って、大事にしまっておくだけではなくて、日常の中に置いて発揮する効果もあると思うのです」(繁延さん)
写真 繁延あづさ
そう感じるようになったのは、写真家である繁延さんが自身の出産時に、自分が“被写体”となって撮影してもらった経験もきっかけになっているといいます。
「1枚の写真を見た瞬間に、忘れていた思い出がフッと蘇ってくるようことがあるでしょう? 私自身も、自分の出産時に撮ってもらった写真を1か月後に見返して『赤ちゃん抱いたときの私、こんないい表情していたの!?』とびっくりしたのです。まるで人生を2回味わうような感覚でした。写真には、そういう過ぎ去った時というか『時の記憶』を呼び覚ます“ヒント”になる力があると思います。このフォトブックには、いわゆる“いい写真”ばかりでなく、親子喧嘩してふてくされた表情や、親族の葬儀の写真など、私が子どもに『覚えていてほしいこと』をあえて入れています。だから覚えていなくても、成長後に見返したときに『こんなことがあったんだ』とか『こんな風に自分を見ていたんだ』と気付く日が来るはず。それは“隠しメッセージ”のようなもの。つまり、このフォトブックは、その子の物語であると同時に、実は母親である私の物語でもあるのです」(繁延さん)
写真 繁延あづさ
繁延さん自身も、思春期にさしかかった“上の子”の反抗的な態度や、“下の子”のイヤイヤ期に手を焼くこともあるそうです。そんなときにこのフォトブックを開くと、生まれた日に感じた「無事に生まれてきてくれたら、それだけでいい」という当時の心境が蘇り、穏やかな心境で子どもに接することができるといいます。