K:生後12か月までに、親がこういうことをすると、発達を妨げるということはありますか?
高橋先生:わが子を心からかわいいと思えれば大丈夫。それで十分です。
K:そうなんですか?
高橋先生:はい。もちろん重い病気や慢性の病気、生まれつきの体質に苦しんでいるお子さんや育てにくいなと感じるお子さんもいます。母乳が足りないために粉ミルクの併用もやむを得ない場合もあります。小児科医や保健師などがそのような場合にお力になります。でも大多数の子は、多少の個性はあったにしても、遺伝子の力で正常に成長し、正常に発達することが約束されて生まれてくるわけです。心配はいらないのです。子育ては楽しむためにあるもので、とくに最初の12か月を楽しむかどうかで、それからの子どもの見え方がずいぶんと変わってきます。
K:最初の12か月を楽しむ……ただ、いろいろとどうやって子どもを育てたらいいか、悩むことの多いママ、パパも多いと思いますが。
高橋先生:それはそうだと思いますが、自分の子に自信をもって育ててほしいですね。1か月健診から始まり、3か月、6か月と、順次、“関門”(=乳児健診)を通過していくようであれば、まずは大丈夫です。あまり細かいことを気にせずに楽しむことがいちばんです。
K:何が正しい子育てなのかを求めてしまったり、夫婦間で意見が違うと悩みが深くなってしまったりという話もママ、パパからよく聞きますが、それは気にしなくていいことなんですね?
高橋先生:新米のママ、パパが正しい子育てを追及しても、子どもの健やかな成長・発達には大きな影響はない、と理解していただきたいです。むしろ、細かなことを気にしすぎるがあまり、夫婦仲がよかったのに、子育てのことでけんかばっかりしてるなんてもったいないですよ。赤ちゃんから幼児になってもそれは同じことで、保育園にするか、幼稚園にするかとか、お受験させるかどうかとか、ありとあらゆる場面で子どもを大事にしたいという気持ちがあまり強すぎると、本来“幸せの種”のはずの子どもが心配事になっちゃうんですね。
K:それでは本末転倒になってしまいます。
高橋先生:はい。とは言っても、「先生、子育ては大変なんですよ!」って意見ももちろんわかります。そもそも、「あー楽しい!」と思って子育てしている人も少ないと思います(笑)。特に一人目のお子さんについてはどうしても不安になりますからね。でも、ほとんどの子どもはちゃんと育ってくれるんです。そのことに自信を持ってほしいと思います。
子どもが初めて立った瞬間、子どもはニコッ~と笑うんですよね。それは一生で唯一の瞬間で、子どもは覚えていないけど、それに立ち会えたお母さん、お父さんは絶対に忘れないですよね。子育ては大変です。でも、その大変な時期を楽しく、前向きに過ごしてほしい。我が子が初めて立った時に見せたあの笑顔のような、絶対に忘れることができないかけがえのない瞬間を、12か月までの間にどれくらい味わえるか。みなさんには、ぜひとも多くの幸せを感じて、子育てをしてほしいと思っています。
<プロフィール>
高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 専門は小児科一般と小児神経
1982年慶応義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。