妊娠5か月の戌の日には「安産祈願(帯祝い)」、生後7日目の「お七夜(命名式)」、1か月経ったら「お宮参り」、100日目には「お食い初め」と、日本には子どもの健やかな成長を願って行われる伝統行事がたくさんあります。
毎年3月3日に女の子の成長を祝う「桃の節句」や5月5日の男の子のお祝い「端午の節句」もこうした行事のひとつです。「節句」とは、昔から節目の日に行われてきた行事のこと。なかでも赤ちゃんが生まれて初めて迎える「初節句」は、誕生を喜び、健康で幸せな人生を送るようにとの願いを込めて行われる特別な祝い事です。
今回、「ミキハウス出産準備サイト」では、約1000年以上も受け継がれてきた「女の子の初節句」の由来や祝い方について特集します。伝統文化を分かりやすく現代に伝え、子育てに伝統行事を取り入れて楽しむ「行事育」を提唱している和文化研究家の三浦康子さんにお話を伺いました。「行事育」とは、行事の本来の意義を知った上で楽しむことで、形だけのお祝いではなく、親の思いが子どもに伝わり、その子の成長に大きく関与していくという三浦さんの体験に基づいて生まれたものです。
初節句の歴史と意義、ご存知ですか?
緋毛氈(ひもうせん)の赤に映えるきらびやかなひな人形、ピンクの花びらに春を感じる桃の花、色とりどりの「ひなあられ」。いつもより華やかに飾られた部屋で、家族が集う女の子のためのお祝いが「桃の節句(ひな祭り)」です。そんな光景が子どもの頃の忘れられない思い出というママも多いのではないではないでしょうか。
日本の代表的な年中行事の一つである「桃の節句」は、この時期に咲き始める桃の花を飾って春の訪れを祝い、邪気を祓(はら)ったことから、こう呼ばれたそうです。もともと性別・年齢に関係なく、藁や紙の人形に不幸や体の不調を移し、川に流すなどして健康を祈り災厄を祓うものだったのですが、平安貴族の子女が楽しんでいた人形遊びと結びつき、女の子の成長を祝う行事に変化したと言われています。
三浦康子さんによると、「桃の木は、昔から邪気を祓う神聖な木であり、木へんに兆しと書くことから分かるように、生命を育む女性の象徴だった」とのこと。「桃の節句」が女の子のためのお祝いとされたのは、そのような理由もあったのですね。
「現代の『桃の節句』は、春の初めにひな人形を飾って女児の健やかな成長を喜び、幸せを願う行事で、(一般的には)『ひな祭り』と呼ばれています。『ひな』とは、小さいもの、幼いものという意味。日本の伝統行事は、見えない思いをモノやコトに託して行われるものが多いのですが、『ひな祭り』も我が子に寄せる思いを、ひな人形というモノや、ひな祭りというコトに託して行っているわけです。そして『初節句』も、日本固有の文化であると同時に、親から子への愛情表現のひとつなんですよ」(三浦さん)
多くの伝統文化が風化しつつある現代でも初節句が、親から子へと受け継がれ、伝えられているのは、「時代が変わっても、子どもを思う親の心は変わらないから」と三浦さんは言います。
「親御さんたちに、初節句をなぜ行うのですかと尋ねると、『伝統だから』と言う人は少なく、『我が子のためにやってあげたい』と答える方がほとんどです。生まれてきてくれてありがとう。どうか健やかに育ってね。幸せな人生を歩んでね……という心からの願いをカタチにしたものが、初節句。だからこそ、初節句の風習は連綿と続いているんですね」(三浦さん)
三浦さんは、和文化研究家として活動する中で、日本の伝統行事は愛情表現であり、それを大切にすることが子育ての時間を豊かにしてくれる――そんなことを確信するようになったそうです。
「お正月でも節句でも、行事というのは毎年繰り返されるので、それをきっかけに家族の思い出が蘇ってくるもの。私はこれを『思い出ボタン』と呼んでいますが、伝統行事に親しむことで、『思い出ボタン』が押されるたびに思い出が蘇ってくるので、親の愛情や家族の絆をあらためて実感させてくれます。それが子どもにとってかけがえのない宝物になり、心豊かな人生につながるのだと思います」(三浦さん)
いつも子育てや家事、仕事で忙しいママ・パパにこそ、行事を通して子どもに愛情を伝えて欲しいと三浦さんは考えています。
「まだ小さな赤ちゃんですから、お世話だけでも毎日大変な時期ですが、わが子の笑顔を見ていると『幸せだなぁ』と感じることがあるでしょう。そんなママ・パパの気持ちを初節句に込めて祝ってほしいと思います」(三浦さん)