それでは最後に、伝統的な「桃の節句」のお祝いに供される料理とその由来を紹介します。初節句の時にここまで準備をするのは難しいとは思いますが、これから何年も続く行事になりますので、参考にしてくださいね。
■蛤の潮汁
水に関係する行事なので、3月3日に磯遊びをして魚貝類を供えた名残です。蛤などの二枚貝は対の貝殻しか合わないため、「何事にも相性の良い相手と結ばれて、仲睦まじくすごせるように」との願いが込められています。開いた貝の両側にそれぞれ身をのせて(1つの貝に2つ分の身をのせる)盛り付けます。蛤のほかにも、タニシ、姫鰈(ヒメカレイ)などが行事食になっている地方もあります。
■ちらし寿し
海老(長寿)、蓮根(見通しがきく)、豆(健康で勤勉に働ける)など縁起の良い海の幸、山の幸を彩りよく散らして盛り付けます。
■菱餅
蓬(よもぎ)を入れた緑の餅(厄除け)、菱の実を入れた白い餅(清浄)、くちなしを入れた赤い餅(魔除け)の三色で、健やかな成長を願います。
■ひなあられ
関西風は菱餅を砕いてあげたあられ。関東風は米粒をあぶって質素倹約を表したものに由来します。
■白酒
本来は百歳(ももとせ)にちなみ、桃の花を浮かべた「桃花酒」を飲んでいましたが、江戸時代に白酒ができて定着しました。
「初節句」を祝う料理は、食材ばかりでなく調理法や盛り付けにまで、季節感や縁起にこだわった日本人らしい気配りが行き届いています。伝統的な和食が食卓にのぼらなくなった今の時代、こうした行事食を通じて、世界遺産にも登録された「和食」の繊細な味わいを再認識し、子どもたちに伝えていく機会にもなりそうです。
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「行事本来の意味を知って、その行事をわが子のとかかわりの中で親の思いを伝える機会にして欲しい」と三浦さんは考えています。家が狭くてひな人形を飾れなくても、祖父母の家でママが小さい頃飾ってもらったひな飾りを出して「初節句」をお祝いするという方法もあります。近くの公園に桃の花が咲いていたら、「桃のお花見」を兼ねてみんなでお弁当を食べても楽しそうです。
子育てに関する伝統行事を単なるイベントととらえるのではなく、「子どもに健やかな成長を願う親の気持ち」が込められた文化として伝えていくことは、赤ちゃんにとって、日本人としてのアイデンティティの形成や、家族の絆、心豊かに成長する力になるのではないでしょうか。かわいい娘のための初節句を自分たちらしく、愛情を込めて祝ってあげたいものですね。
【プロフィール】
三浦康子
和文化研究家 ライフコーディネーター
いにしえを紐解きながら、今の暮らしを楽しむ方法をメディアや講演などで提案しており、「行事育」提唱者として注目されている。新聞、雑誌の連載記事やテレビ、ラジオのレギュラー出演も多数。Webサイト“AII About”の「暮らしの歳時記」や“私の根っこプロジェクト”「くらしの歳時記」などを立ち上げ、大学で教鞭もとっている。著書に「子どもに伝えたい 春夏秋冬 和の行事を楽しむ絵本」(永岡書店)、監修書「おうち歳時記」(朝日新聞出版)、「赤ちゃん・子どものお祝い事がわかる本」(朝日新聞出版)ほか多数。