厚生労働省は2000年に、妊婦に葉酸の摂取を呼び掛ける指導を始めました(※)。葉酸とは、緑黄色野菜、果物、きのこに含まれるビタミンB群の水溶性ビタミンです。妊娠初期に積極的に葉酸を摂取すると、胎児に異常が起きにくくなることが、最近の医学界では常識となっています。
「妊娠初期の葉酸の摂取量は、赤ちゃんの脳や脊椎の先天的な疾患と関連することが国内外の研究で明らかになりました。食べ物で必要量を摂ることが理想ですが、サプリメントでも構いません。摂取したからといって、すぐにママの体に補充されるわけではないので、妊娠の1か月ぐらい前から意識して摂れるといいですね。とはいえいつ妊娠できるかわからないので葉酸は、妊活を始める少し前から摂りましょう。なお妊活・妊娠中の葉酸の必要量は、成人の約2倍とされています」(堀部先生)
葉酸の他に重要な妊娠中の栄養素といえば鉄分。堀部先生もこう解説します。
「妊娠中はおなかの赤ちゃんへ栄養を運ぶためにママの血液の量が増えていき、出産前には通常時の約1.4倍になります。鉄分は血液の原料ですから、増えていく血液の濃度を維持するために必要なのです。鉄分が足りず、血液が薄くなると貧血になってしまい、ママの心臓や腎臓にも負担がかかってしまいます」(堀部先生)
ママの貧血が重症化すると、早産や低出生体重児の可能性も高くなるそうです。葉酸や鉄分は意識して摂っておくことが大切です。
堀部先生はこう付け加えます。
「葉酸や鉄分に関してはサプリメントに頼るのもいいでしょう。でもサプリメントはその栄養だけを補うものですから、サプリメントに頼りすぎると、他の栄養が不足するという事になりかねません。基本は食事です。食事なら、例えば緑黄色野菜で葉酸を摂ろうとすると、その野菜には他のビタミンやミネラル、繊維質なども含まれています。また肉や魚、米なども一緒に食べるでしょうから、たんぱく質も炭水化物も自然と摂ることになります。バランスの良い食事をしていれば、だいたい必要な栄養が摂れるんです」(堀部先生)
昨今は一昔前に比べ、オーガニック(有機栽培)の食材にこだわるママも増えています。堀部先生は、「そのこと自体にはなにも問題はないけれども、こだわることが食べ物の偏りにつながる可能性もある」と警鐘を鳴らします。
「オーガニックに関しては、医学的に証明するところはないので、僕らの立場からすると、妊婦さんにとって“良い”とも“悪い”とも言えません。ただ、『無農薬でなければ食べるべきではない』、『その季節に自然に採れるものでなかれば不自然だから食べない』くらいこだわりが強くなると、結果として食べられる食材がかなり限られてきます。それで必要な栄養が足りなくなることの方が、妊婦さんにとっては問題ではないでしょうか」(堀部先生)
おなかの赤ちゃんが健康に育つようにと、サプリメントを飲み、体にいいとされるものを選んで食べるのは、ママが赤ちゃんを大切に思うからこそ。でも何よりも大切なのは、必要な栄養とエネルギーをきちんと摂るということのようです。バランスの取れた食生活で、妊娠期間を健康にすごしたいですね。
《参考資料》
※ 神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に関する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について(平成12年12月28日/厚生労働省)
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1212/h1228-1_18.html