やすのり先生のなんでも相談室 
入院から退院まで「産婦人科」のギモン(後編)

分娩後の病院ではどんなことを経験するのですか?

Q.産院では、分娩後どのようなことを経験して、退院という流れになるのでしょうか。

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授乳指導から始まり、調乳指導、沐浴(もくよく)指導、産褥(さんじょく)指導があります。おむつ替えや着替えの指導もありますね。

入院中のお母さんって、本当に忙しいのです。もう産後2日目には始まります。

調乳指導というのは、人工栄養の作り方です。哺乳瓶の消毒から、粉ミルクにお湯を入れて、それを冷ますやり方を学びます。沐浴指導では、バスタブを使って赤ちゃんを実際に入れてみます。

産褥指導というのは、主に産褥体操を教えることですね。赤ちゃんを産んだ後、女性の骨盤はゆるんだ状態になっています。また、腟が開くことによって膀胱も下がっているので、尿漏れが起きやすい状態なのです。そのため、腟を締めるような運動をしなくてはいけません。それが産褥体操です。

入院している間は、助産師や看護師などのスタッフが常に近くにいますので、わからないことがあれば、どんどん質問するといいと思います。通常は、だいたい産後5日目に母児の健康をチェックし、問題がなければその日に退院となります。

Q.「産後の肥立ちがいい」という言葉がありますが、これはどういう状態のことをいいますか?

簡単にいえば子宮が元の状態に戻ること、いわゆる「復古(ふっこ)」の過程がいいもののことです。

産後は、後陣痛が起こり、子宮が収縮する痛みがあります。これは長い人でも1週間くらいで治まってきます。あとは、会陰の痛みがなくなり、骨盤のゆるみが矯正され、尿漏れが治まってくるなど、妊娠前の状況に戻ってくるのです。

150~200年前までは「衛生」という概念がまったくなかったので、感染症が大変多かったんですね。いわゆる「産褥熱」というものを引き起こし、産後の肥立ちを悪くさせていました。

けれど、今は衛生状況がいいし、抗生物質があるので状況が違います。だから、正常分娩なら産後の肥立ちがいい方が非常に多い。

今の時代、悪くなる可能性があるのは、子宮筋腫や子宮内膜症などの病気を患っている人や、妊娠高血圧症候群、前置胎盤や胎盤の早期剥離といった合併症になった人。これらの方は、子宮の復古が遅くなることがあります。

 

Q.妊娠がわかったばかりで、これから出産する医院を探すつもりです。万が一のことを考えて、新生児集中治療室(NICU)のあるような病院にしたほうがいいのでしょうか?

合併症がなく、妊娠経過に何ら異常がない場合なら、NICUがある病院でなくてもいいと私は思います。

ただ、やっぱり分娩というのは何が起こるかわからないところがあります。予測のつかないことが結構多いのです。

ですから、たとえば、開業医でのお産を予定されているなら、もし緊急事態が発生したら、どのように対応してもらえるのかということは事前に確認しておいたほうがいいですね。どういう時に帝王切開ができるのか、大きな病院との連携はちゃんとできているのか。そういうことはちゃんと知っておいたほうがいいです。

また、妊婦さんが40歳以上の高齢出産の場合は、リスクを考えてNICUのある病院にするのもいいでしょう。赤ちゃんが未熟児になる可能性、早産になる可能性が20代、30代の妊婦さんに比べると高いからです。

それから、内科系の病気、つまり糖尿病、肝機能障害、高血圧などを患っている人も、同様にリスクの高い出産になるので、NICUのある病院のほうが安心でしょう。

 

Q.病院での出産と、助産院での出産での違いは、医療行為をするかどうかだと聞きました。これは正しいですか? 

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はい、その通りです。ここでいう医療行為は具体的にいうと、帝王切開や会陰切開のことです。だから、NICUの話と重なりますが、リスクのあるお産になりそうな方は、助産院でなく病院を選択したほうがよいといえます。

そのような心配がない場合は、助産院にするか、病院にするかはご本人の選択の自由でいいと思います。助産院の場合は、自然の経過を非常に重視しますから、管理された病院でのお産は好まないという人は、助産院を選んでもいいかもしれませんね。けれど、助産院に決めた場合でも、もしもの時のことを考えて、病院との連携がきちんとできていることをぜひ確認してください。

なぜ、日本の妊産婦死亡率、周産期死亡率が世界一低いかというと、それは病院でのお産が増え、管理が十分にされているからです。こういう恵まれた状況だと、それが当たり前のことのように思えてしまうかもしれませんが、本当は出産というのは、思っても見なかったようなことが起こる危険性をはらんでいます。今の日本の周産期医療は、それに緊急対応できる高い技術を備えています。だから、とても危険な状態に陥った低出生体重児や妊産婦でも、命が救えるのです。

今、「院内助産」という形があります。これは、施設は病院だけれども分娩は助産師が行うもの。会陰切開は医師が行うことが多いですが、分娩自体は助産師が担当します。

産婦人科医がとても減っているという現実問題の解決になり、また助産師の活躍の場を広げられるということで、大変いいシステムだと思います。緊急事態には、医師がかけつければいいわけですし。

助産師さんは、妊婦さんに寄り添って話を聞いてくれたり、アドバイスをしてくれたりしますよね。痛みがあるときは背中をさすってくれたり、励ましてくれたり。これを私のような医者がやると、やっぱり変な感じじゃないですか(笑)。

これからの日本のお産は、院内助産というハイブリッドな形が増えていくといいと思います。

*  *  *

赤ちゃんが無事誕生した後も、病院ではいろいろなことが行われるのですね。入院前にはおなかの中にいた赤ちゃんが、退院するときは腕の中に――。その日を幸せな気分で迎えましょう!

 

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