特集「発達心理学からみる赤ちゃんの食事」(前編)親子のコミュニケーションを育むおっぱい、離乳食の与え方

特集「発達心理学からみる赤ちゃんの食事」(前編)
親子のコミュニケーションを育むおっぱい、
離乳食の与え方

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赤ちゃんに与えるおっぱい、ミルクや離乳食は成長にとても大切なもの。しっかり栄養をとって大きく育ってもらいたいものですね。しかし、“食事”は栄養を与えるだけのものとは限りません。

ママ・パパだってひとりで食べるより、誰かと一緒に食事する時の方が楽しいでしょうし、味も不思議と美味しく感じたりもします。人間にとって食事とは栄養を摂取するためだけではなく、他の意味を持つものではないでしょうか。そうしたことを考えると、赤ちゃんにとってのおっぱい、ミルク、そして離乳食は体だけでなく心の成長にも影響を与えるのかも……。そこで今回は早稲田大学で発達心理学について研究している外山紀子先生にお話を伺いました。

 

授乳はママ・パパとふれあう大切な時間です

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赤ちゃんにおっぱいやミルクをあげている時に、ついよそ見をしていたら、赤ちゃんがじっと顔を見上げていたという経験はありませんか?

生涯にわたって発達・変化していく人間の心理を研究する発達心理学の視点から、早稲田大学の外山紀子先生は、赤ちゃんにとっての“食事”は「単に成長や生命維持のためだけではなく、生まれた時から他者とかかわるためのもの」だと指摘します。

「哺乳の時、ヒト(人間)の赤ちゃんは一気に飲むのではなく,休み休み飲みます。赤ちゃんが飲むのをやめると、それに気がついたママ・パパは『どうしたの?』と顔をのぞきこんだり、ちょっと揺らしたり,頬を触ってみたりします。そうやってママやパパが反応してくれると、赤ちゃんは飲むことを再開します。交互に相手に働きかけることをターン・テイキングといいますが、哺乳をめぐるやりとりはコミュニケーションそのものです。赤ちゃんとママ・パパとの会話の原型ともいえるでしょう。ヒトに特徴的な休み休みの哺乳は、赤ちゃんとママ・パパとのコミュニケーションのきっかけとなっているのです」(外山先生)

赤ちゃんのこうした行動はヒトに近いといわれるチンパンジーでは見られないそう。

「チンパンジーの赤ちゃんは哺乳の時に休んだりはしません。休み休み飲むと哺乳に時間がかかるので、外敵に見つかる危険性が高くなります。だから、チンパンジースタイルの哺乳の方が安全といえます。しかしヒトの赤ちゃんはそこを犠牲にしても、哺乳をきっかけにしてママ・パパとやりとりをするのです。不思議ですね」(外山先生)

それを考えると、授乳時にテレビやスマホに夢中になっていては、赤ちゃんがコミュニケーションを求めていても気がつかないかもしれませんね。もちろん授乳時にしか休める時間がないんだから、スマホくらい見せて! というママの気持ちもあるでしょう。ただ、おっぱいやミルクの時間は赤ちゃんにとっては、「栄養摂取」以上の意味があるものなので、できる限り赤ちゃんを見つめて、笑顔をたくさん返してあげたいですね。

離乳食は赤ちゃんとママ・パパの“共同作業”です

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外山先生は赤ちゃんの心理と食の関係を調べる中で、離乳食初日から赤ちゃんとママの様子を観察していますが、初めてスプーンを口元に持ってこられた赤ちゃんは、たいていびっくりするという共通点があるそう。そもそも離乳食を始めたばかりの赤ちゃんは上手に口を開けて食べることができません。

「大人は自分の手で食べ物を口まで運び、自分の口でそれを食べます。しかし離乳食の時期は、ママの手が食べ物を赤ちゃんの口まで運び、赤ちゃんの口がそれを食べます。手の作業と口の作業を、赤ちゃんとママが分担しているわけです。赤ちゃんとママによるこの共同作業は、2人の息が合わなければ、なかなか上手にはできません。私の研究では、ママたちは、離乳食を与えている間、30回中25回ぐらいは赤ちゃんと一緒に自分も口を開けています。おもしろいことに、口を開けるタイミングも口の形も赤ちゃんとほぼ一致しています。でも,ほとんどのママは自分の行為に気づいていません。」(外山先生)

ちなみにパパが離乳食をあげている横でその様子を見ている時でさえ、ママは「アーン」と口を開けるという研究結果(※1)もあります。

「ママは赤ちゃんと一緒に『アーン』、『モグモグ』をして、アイコンタクトを交わし、ゴックンしたことを確認したら、次のひとさじを赤ちゃんの口に運びます。食の体験のはじまりに、ママとこうしたやりとりを繰り返すことは、社会性を育むためにとても大事なのです」(外山先生)

離乳食を与える際にママたちが口を開ける頻度を日本とスコットランドで比較すると、日本のママたちの方が多いという研究(※2)もあります。その理由について「日本のママは気持ちの上で赤ちゃんと自分を同一視する傾向が強いのかもしれません」と外山先生。日本のママは一緒に「アーン」、「モグモグ」をすることで愛情を表現し、赤ちゃんとの結びつきを深めているんですね。

離乳食を食べないからといって気にしないでくださいね

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0歳児は何でも口に入れてしまう時期。基本的にその時期は選り好みをしないものですが、もし食べない物があるなら、舌ざわりが嫌なのかもしれないし、なにか食べにくいと感じてるのかもしれません(口腔機能が未発達な赤ちゃんにとって、食べにくいものもあります)。
また、薄味の離乳食に物足りなさを感じていることも考えられます。

「ママ・パパが作ったものより市販のベビーフードが好きなようなら、それをあげてもいいと思います。食産業は一昔前と比べて目覚ましく発達しているし、働くママが増えて、みんな忙しくなっている現在、便利なものを使うことに罪悪感を持つ必要はありませんよ。それよりも『口に入れるものはオーガニックでなければ』とか、『栄養価の高いものを』とこだわりすぎてしまう方が心配。そもそも離乳食期の赤ちゃんは、まだおっぱい、ミルクで栄養をとっているため、赤ちゃんの食べる量について、さほど気にする必要はありません。数日単位でみてある程度量を食べていて,バランスがよければそれでよしと気長に考えた方がよいと思います。一生懸命がんばりすぎると、親は“食べて欲しい”と期待してしまいがち。それが赤ちゃんにとっても親自身にとっても重荷にならないようにしてほしいですね」(外山先生)

離乳食はママ・パパにとっても、赤ちゃんにとっても初めてのことばかり。どうしたらうまくいくのかと気をもむより、離乳期はあくまでも通過点と考えて、無理をしないことが大切なようですね。

続く後編では、イヤイヤ期も始まって、偏食やムラ食いでママ・パパを悩ませる「幼児食の与え方」について外山先生に教えていただきます。

〈参考文献〉
※1 幼児の食行動に対する母親の共感的開口に関する実験的研究 (根ケ山光一, 1999年) 
※2 Feeding as a communication between mother and infant in Japan and Scotland (母子間のコミュニケーションとしての食行動:日本とスコットランドの比較)(根ケ山光一,  2000年)

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【プロフィール】
外山紀子(とやま・のりこ)
早稲田大学人間科学学術院教授。博士(学術)。津田塾大学学芸学部国際関係学科教授を経て、現職。研究分野は認知発達。「食事場面における幼児と母親の相互干渉」、「離乳食期における摂食スキルの発達」、「幼児期における選択的信頼の発達」など数多くの論文を発表。著書に「心と体の相互性に関する理解の発達(風間書房)」、「発達としての共食 社会的な食のはじまり(新曜社)」、「乳幼児は世界をどう理解しているか:実験で読みとく赤ちゃんと幼児の心(新曜社)」、「やさしい発達と学習(有斐閣)」、「若者たちの食卓・自己、家族、格差そして社会(ナカニシヤ出版)」などがある。

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