世界の子育て Vol.2 ドイツ編(後編)医療費&教育費が無料 経済的不安が少ないドイツの子育て

世界の子育て Vol.2 ドイツ編(後編)
医療費&教育費が無料 
経済的不安が少ないドイツの子育て

妊娠・出産インフォ

この春、日本では今年10月から幼児教育・保育の無償化を実施するための「子ども・子育て支援法改正案」を審議しています。この新しい制度は、子育て家庭の経済的な負担を減らし、少子化に歯止めをかけるものとして期待されています。

先進諸国の多くが悩む少子化問題。こうした少子化への行政の取り組みが成果をあげ、出生率を上げているのがドイツです。

不定期連載「世界の子育て」vol.2は、ミュンヘン在住の日本人ママ・溝口シュテルツ真帆さんのお話を紹介しています。妊娠・出産や産後ケアなどについて紹介した前編に続き、後編ではドイツの充実した子育て支援や育児休暇、保育園事情について話していただきました。

 

各種支援金で経済的な不安が軽減され、子育てに前向きになれる

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――妊娠・出産、子育てへの支援策が功を奏して、ドイツは最近出生率が上がっているそうですね。

溝口さん:そうなんです。ドイツ連邦統計局の発表では、2016年の出生率は1.59で1973年以来最高になったそうです。私が病院の説明会に行った時も妊婦さんが何百人も来ていました。もちろん(多産傾向のある)移民や難民を大量に受け入れたこともありますが、景気が好転し、子育て支援策も充実してきて、経済的な理由で子どもをあきらめなくていいことも大きな要因だろうと思います。

――具体的にはどんな支援が受けられるんですか?

溝口さん:医療費だけでなく、教育費も基本的には大学まで無料です。その上、子どもが18歳になるまで国から毎月192ユーロ(約2万4千円)が支給されます。親は生活のためのお金さえあれば、安心して子どもを大学まで行かせることができるんです

――それは手厚いですね。

溝口さん:そうした支援は国からだけではありません。わたしが住んでいるミュンヘンはバイエルン州にあるのですが、ここは自動車産業が盛んで自治体の財政が豊か。そんな背景もあってかバイエルン州は昨年から1~3歳までの子どものいる家庭に月に250ユーロ(約3万2千円)を支給するファミーリエンゲルト(家族金)を始めました。保育園にはお金がかかるのでその分を自治体が負担するという形ですね。

――国も自治体も子育て支援に力を入れているんですね。企業のサポート体制はどうですか?

溝口さん:妊娠・出産に関しては、まず母体保護のための14週間の産前産後休暇があります。その後エルターンツァイト(親時間)と呼ばれる育児休暇を取れるのですが、これは母親と父親を合わせて18か月です。そのうち1年間は上限を1800ユーロ(約23万円)として給料の70%が国から支払われる仕組みです。

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――合わせて18か月というのはどういうふうに取るのですか?

溝口さん:例えば、産後休暇がすぎたらママが半年間赤ちゃんの面倒を見て、そのあとパパが半年休んで家事、育児をするという感じでしょうか。子どもが8歳になるまで育児休暇は分けて取得できるので、半年分は残しておいて小学校に入る前に残り枠を使って長い家族旅行に行くなんてこともできるんです。うちの夫は3度に分けて育児休暇を取って、そのうち1度は一緒に日本に長期で帰りました。産前産後休暇と「親時間」を合わせると両親で合わせて21か月以上も休めるということになっています。

――そんなに休めるなんて、羨ましい限りです……。日本でもそこまで長い期間ではありませんが、制度としては育児休暇も存在するし、多くの企業が採用しています。ただこういう制度を十分に使えるか否かは、「正規」か「非正規」など雇用形態で違ってきたりします。ドイツではそのあたりどうですか?

溝口さん:ちゃんと住民登録をして税金を払ってさえいれば、私のような外国人のフリーランスでも育児休暇中の収入の補助も受けられます。国がお金を出しているんですよね。

――社会保障制度の充実ぶりはすごいですね。

溝口さん:税金と社会保障費は高いんですけれど、それがこういうことにも使われていると実感できるので納得感はあります。特に妊娠・出産、育児を経験するとすごく助けてもらっているのが分かりますね。

祝福はするけど……パパの育児休暇取得に関するドイツ人の本音

――日本ではパパの育児休暇はまだまだ一般的ではありませんが、ドイツは皆さん取るんですか?

溝口さん:取りますね。私の夫は育児休暇を1か月しか取らなかったんですけれども、男性でも半年ぐらいのまとまった休みを取ることは珍しくありません。1年間休む人もいるようです。

――素朴な疑問ですが、会社はそれで業務に支障が出ないんですか?

溝口さん:日本とは働き方から違うから、社員が半年休んでも何とか回りでカバーしていける……ということなのでしょう。

――普通に考えると、人員が減るわけですから影響がないと言ったら嘘になりますよね。それがわかっているから、私たち日本人は「周りに迷惑をかけるから」と権利を行使できなかったりする。

溝口さん:ええ。もちろんドイツでも本音と建前みたいなのがあって、たとえば私の夫が上司に育児休暇を取ると話した時の上司の第一声は「君もか!」だったそうです(笑)。でもすぐに「イヤイヤごめん。おめでとう!」と言い直してくれたと聞きました。上司としては、「また育児休暇で職場からいなくなる社員がいるのは大変」というのが本音でしょうが、もちろん「ノー」とは言えない社会なんですよね。

――なるほど、興味深いお話ですね。話は変わりますが、家庭の中でのパパとママの役割分担は、どんな感じでしょうか。

溝口さん:家庭によって違いますが、日本と比べるとだいたいの家庭でパパが自然に家事、育児をやっていると思いますよ。ちなみに、うちの夫は家にいる時は家事や育児をほとんどやってくれるので、私の週末は文字通りのお休みです。

――やっぱり「育児はママの役目」という感覚を持つ人は少ないですか?

溝口さん:いなくはないし、実際にママが家事・育児を全部やっている家庭もあるようですが、社会にはそれをやらせている男性を非難するような空気があると思います。ただ北欧みたいに完全に平等というのではなくて、やっぱりママの方が時短で働いていたりはしますね。

日本とドイツ、子育てについて大きく違う部分とは

――日本では少子化が止まらないというのに待機児童問題は深刻です。ドイツは子どもが増えているそうですが、保育園は足りているんですか?

溝口さん:ドイツでも都市部は保育園不足です。ベビーブームに追いついていないんだと思います。うちも月150ユーロ(約2万円)ぐらいで丸1日預けられる公立の保育園を希望していましたが全然見つかりませんでした。仕方なく1歳半から保育料の高い私立に通わせています。しかも半日だけの枠しか空いていなくて、午後2時~6時の4時間預けて月560ユーロ(約7万3千円)です。これには困っています。

――ベビーブームは喜ばしいことですが、それは大変ですね。

溝口さん:ミュンヘンは移民が比較的少ない地域なので、移民の多いベルリンあたりはもっと大変だという話も聞きます。そして、今の幼い子たちが小学校に行く頃には小学校も足りなくなるだろうと言われています。その一方で、保育園や幼稚園の先生たちの待遇改善を求めるデモも起きていて、これからは増えてきた子どもたちの教育環境についてもっと考えるべきなのかも知れません。

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――難しい問題もあるのですね。さて最後に、日独の子育てに関する価値観や文化の違いについて感じていることがあれば教えてください。

溝口さん:そうですね。日本では何となく無意識のプレッシャーがあって、その価値観に従っていたような気がします。例えば女の子はお人形が好きで、男の子ならやっぱり電車好きだよねとか。でも、女の子が電車好きであってもいいし、男の子がお人形好きでもまったく問題ないわけですよね。どこか子どもに従来の価値観や大人の思い込みで、子どもの性格や好みを規定してしまっていないか。ドイツはそのあたりもっと多様性を認めるというか、人のことはあれこれ気にしない空気感があって、そんな社会で暮らしているうちに、私ももう少し「自分らしさ」「その子らしさ」を大切にしてもいいのかなと思うようになりました。

――ドイツで子育てをすることで、そういう一面が少し覗いて見えたということですね。

溝口さん:はい。娘の保育園では子どもたちは自分のやりたいことをやりたい時にやりたいだけすることができます。外に出たい子は外遊びをするし、部屋にいても遊びを自由に選ぶんです。とことん自由なんですよね。そういう小さい頃からの経験が、子どもの意思を育て選択する力を作るのかなと思うことがよくあります。

――そうした子どもたちが育ち、ドイツの社会をつくっていく。だからこそ成熟した社会が形成されていくのかもしれませんね。

溝口さん:そうかもしれません。ドイツ人にとって大切なのは自分の価値観を持って自分で選択すること。夫と私は子育てに関しても家庭の事情、仕事の状況を見ながら、自分たちがどうありたいのかを考えて、2人で決めるようにしています。私は、そんなドイツ人の考え方、価値観が好きだし、娘にはそうした思考ができる人間に育って欲しいと考えています。

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子どもは社会が育てるものと考え、子育てをあたたかく見守る人々と社会全体の支援を実感しながら自分たちなりの考えを持って育児に取り組むママとパパ。ドイツの子どもたちはそんな大人たちに見守られてすくすくと育っていくのでしょう。

ドイツと日本では社会の在り方や人々の考え方が違う部分も大きく、そのまますんなりと受け入れられるものではないかもしれません。しかしながら、日本をもっと子育てがしやすい社会にしていくために、ドイツに学ぶことは少なくないのではないでしょうか。

 

mizoguchi

【プロフィール】
溝口 シュテルツ 真帆(みぞぐち しゅてるつ まほ)
フリーランス編集者。2004年から日本の大手出版社で編集者として雑誌や単行本の編集に携わる。2014年にミュンヘンにわたり、以降フリーランスとして活動する。ドイツと日本をつなぐ出版社・まほろば社(https://www.mahoroba.de/)代表。

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