高橋先生:競争原理というか、人は勝つからこそがんばれるということもありますよね。小さな子どもにもそういう感情はあるので、競争させた方が目標を達成しようという意欲がわくし、実際に達成した時の喜びも大きくなるんですね。ひとりでがんばらせるよりも、複数でがんばらせた方が子どもたちはがんばることができます。競争は、がんばった結果を大きな喜びとして実感できるという点でも心の成長に大切なものです。
I:そして負けることでも学ぶと。
高橋先生:そう。必ず負けがあるところが遊びや競争のいいところです。なにかで競えば必ず負けることがあり、負けたら負けたで多くを学ぶチャンスを得る。大きな挫折感になるほどの負けは子どもには必要ありませんが、遊びの中で、つまりルールのある競争を繰り返す中で、小さな失敗、小さな挫折感を経験することは子どもの自己肯定感を育むためにもむしろ大切なことだと思うんです。「うまく行かなかった、でも、自分はこれでいいんだ!」と実感できるチャンスはなかなか得難いものです。
I:先ほどもやや同じような質問をしましたが、失敗への耐性というか、失敗して前向きにがんばろうと思う子と、失敗してしまうとすぐに心が折れちゃう子、結構分かれるのではないかと思いますが、親はそれを子どもの個性として受け入れた方がいいのでしょうか?
高橋先生:う〜ん、失敗に弱いと言っても程度の問題だと思います。1回負けたくらいですぐにあきらめる子なんて、まずいないですよね。そもそも、勝てるようなこと、うまくできることをやりたがるのが子どもというものです。もし仮に、根気よく、前向きに負け続けている子がいたとしたら、それは親が負けることばっかりやらせてるんじゃないですか。そもそも親自身は興味も才能もないことなのに、子どもには無理にチャレンジさせようとすることがあります。そういう場合、多くの子どもは挫折感、敗北感を感じる。敗北感自体が悪いとは言いませんが、そういう状況をもし親がつくったのであれば、その失敗から何かを学べるように導くのも親の責任だと思うんですよね。
I:それはそうかもしれませんね。で、親は具体的にはどうすればいいんでしょうか?
高橋先生:まずは「うまくいかないもんだな」「悔しいな」と子どもの気持ちに寄り添ってあげるといいんじゃないですか。そうすると子どもは「勝っても負けても、ママもパパも自分の味方なんだ、優しく守ってくれるんだ」ということを実感する。とても大事なことです。特に小さいうちは、負けやちょっとした失敗がその子にとって力になるように、近くにいるママ、パパは共感し、褒めるべき点を見つけてあげることです。そして「なにくそ!」ってチャレンジできる次の機会を与えてあげてください。そんな場面は、競争とか、遊びとか、あるいは兄弟げんかの中にも、たくさん転がっているはずです。失敗の体験がその子にとって次の力になるようにしてあげるのが教育や子育ての基本だと思います。
I:勝つことでも負けることでもいろいろ学べるということを考えると、勝ちすぎもダメだし、負けすぎもかわいそう。変な話、子どもがすくすく育つために幼児期の競争にちょうどいい“勝率”というのはありますか?
高橋先生:勝率ですか? まぁ、何勝何敗がちょうどいいなんて話はないと思いますよ(笑)。勝ち組でいた方が能力を発揮できる子も多いでしょうね。一方、負けん気が強くて、絶対にそのうち立ち上がれるはず、この子なら少しぐらい負け続けても大丈夫、と思える子もいるはずです。ママ、パパは我が子をよく見て、その子に合った“勝率”を探してあげてはいかがでしょうか。
I:まずは我が子の性格や個性をしっかり知ることが大切かもしれませんね。そして競争や勝ち負けがつくことは悪いことではなく、成長の糧になるという先生のお話は大変参考になりました!
<プロフィール>
高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 専門は小児科一般と小児神経 1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。