I:そこで気になるのは「負け」についてです。以前から先生は「生きるために必要な3つのチカラ」として「共感力」「意思決定力」「自己肯定感」の3つを挙げられていますよね。特に自己肯定感に関わると思うのですが、やはり「負ける」より「勝つ」ことの方が、自己肯定感を醸成するにはいいのかなと。そう思って僕自身、3歳の娘と遊ぶ時はわざと負けてやるんですね。勝つことで前向きになって欲しいという気持ちで、おそらく多くの親御さんが同じようなことをやっているかと思うんですが……。
高橋先生:ええ、そうでしょうね。
I:なにが言いたいかと言うと、「小さな子どもは負けることでちゃんと学べるものなのか」と悩むことがあるんですよ。ただ不快になり、自己肯定感を損なうだけなら、当分は下駄を履かせた方がいいのかなと思うし、それこそ手をつないでゴールも「あり」かもしれない。そこがわからなくて……負けることの意味をしっかり咀嚼できるようになるのはいつぐらいからなのでしょうか。
高橋先生:それは非常に難しい質問であり、僕にもわからないです。ただ、世の中って成功と失敗の組み合わせになっているわけで、成功ばっかりしていると、成功を成功と思えなくなると思うんですよ。失敗ばっかりの場合には……失敗をやっぱり失敗と感じるかもしれないけれど(苦笑)。要は、成功は失敗の反対側であり、その逆も真で、だから面白い。失敗にも「意味がある」ことを、経験を通じて知っていくことは大切だと思うんです。それこそが、子どもが遊びを通じて学ぶべきことなんじゃないかな。
I:遊びで、ですか。
高橋先生:考えてみると、特に子どもにとっては、遊びってほとんどが競争ですよね。楽しいはずの遊びなのに、勝ってばかりの子がいると、負け続ける子は楽しいわけがない。勝っても負けても、やがては飽きてしまう。そこで遊びは終わります。でも、子どもはみんなが楽しめるように自分たちでルールを変えていくものです。
I:ルールを変えるとは?
高橋先生:例えばトランプ。勝った方が次のゲームのためにトランプを切って配らなきゃいけないというルールを作る。そうすると、勝つとうれしいけれど「あー、面倒くさいな」ってことになる。で、負けた方は負けて悔しいけれど、ちょぴり「ラッキー」と思えて、そこに救いがあるんですね。こういうことを考えつくところが、子どものすごいところだと思うんです。
I:たしかにそうですね。
高橋先生:競争、つまり遊びは、社会の縮図だと思うんですよ。子どもたちは競争を楽しむためにひとり勝ちのないみんなが楽しめるルールを見つける才能をもっているんです。まさに、子どもは遊びの天才です。それが子どもの時から競争させることのメリットのひとつで、社会に出た時に他者との関わり合いを楽しむ上でとても役立つと思うんですよね。つまり競争を通じて、他者を思いやる気持ちも育まれるのかなと。