連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 
子どもが遊びから学ぶこと。

子どもは遊びの天才です。特別な道具やおもちゃがなくても、子どもたちの手にかかれば段ボールはトラックになり、ごみ袋は素敵なドレスに変身することも。大好きな遊びを楽しんでいる時の子どもたちの顔は輝いていますね。

遊びは子どもにどんな影響を与えるのでしょう。慶應義塾大学医学部教授の高橋たかお先生の「なんでも相談室」。今回は「子どもと遊び」と「現代の子育て」の2本のテーマでお届けします。聞き手は自らも2児のパパであるミキハウス出産準備サイトのスタッフIです。

 

遊びの延長線上に学びを設定してはいけないと思います

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I:まずは「子どもと遊び」について伺いたいと思います。最近、いろいろなところで「遊びの中で学ぶ」という言葉を耳にします。なんとなくイメージとしては理解しているつもりなのですが……子どもたちは遊びの中で何をどう学んでいくものなのでしょうか?

高橋先生:うーん、僕には、「遊びの中で学ぶ」という意味がよく分かりません。そもそも楽しくて面白くて、遊びたいから遊んでいるわけですよね。子どもは「何かを学ぶため」に遊んでいるわけではないでしょう。

I:たしかに(苦笑)。

高橋先生:遊ぶことは、子どもにとって無条件に楽しくて夢中になれる実体験であるべきです。だから価値があるんです。遊びというものは何かの役に立つことを前提としてはいけないとさえ僕は思っています。ただ、遊びというのはとても大切なことであることは間違いありません。それは子どもにとっては遊びの世界が「社会」そのものだからです。

I:えっと…どういう意味でしょうか?

高橋先生:子どもは遊ぶことで社会そのものを体験する。遊びに没頭する中で自然と社会のルールを学んでいきます。とことん遊んでいれば、楽しいことの中でもちょっとした失敗を重ねるわけです。遊び相手を泣かしたり、おもちゃを壊したり。失敗も遊びの一部なんですね。その体験を通じて、失敗を恐れずに楽しむことの素晴らしさを実感するはずです。

I:そういう意味では、やっぱり学びはあるわけですよね?

高橋先生:もちろん結果としては、遊びによる学びは必ずあります。たとえば、遊びを通じていろいろなことに楽しみを見出す力を身につけられるかもしれません。これは十分「学び」と言えるものでしょう。

I:いろいろなことに楽しみを見出す力、ですか。

高橋先生:ええ。以前お話しした通り、日常生活の中にはたくさんの“興味の種”があるわけですが、それに気付き、楽しむ感性がなければ、人生は味気ないものになってしまいます。大人もそうですよね。仕事、子育て、家事、あたり前の日々を楽しめる人は幸せです。一見たいくつな日常に興味の種、遊びの種を見出す力を持った子どもは、それだけで日々の生活を楽しめるはずです。遊びを通じてそういう力を育むことは大切だと思います。

I:たしかに子どもって本当に些細なことに夢中になって遊んでいることがありますよね。あの時間が、彼ら彼女らにとってとても大切なんですね。

高橋先生:はい。ただこれだけは言いたいのですが、昨今、幼児教育の現場で言われているような「遊び学」みたいなものには疑問を持っています。なんというか、遊びの延長線上に学びを設定してはいけないような気がするんですよ。

I:なるほど…。遊びはそれそのものが大切なのであって、その先の「なにか」を求めるものではないと。遊びになにかしらの“付加価値”があればいいなと思うことがありますが、それは親のエゴなのかもしれませんね。

次のページ 一人でなにかを学ぶより、子ども同士で遊ぶ時間の方がはるかに貴重です

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