連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 
子どもが遊びから学ぶこと。

どうか“正しい子育て”にとらわれないでください

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ここからはテーマを変えて、高橋先生が考える「現代の子育て」について。親世代、もしくは祖父母の世代からよく言われる「私の時代の子育ては〜」というお話。参考になるときもあれば、ちょっと時代が変わったんだからそれを今言われても…と戸惑うこともあるでしょう。先生ご自身が、この数十年での“子育ての変化”をどうご覧になっているのでしょうか?

I:先生は小児科医になられて37年、その間たくさんのお子さんやママ・パパを見てこられているかと思います。その中で“子育ての変化”をどう見ておられますか?

高橋先生:以前にも申し上げたかもしれないですが、親子関係の本質は、人類の進化の過程で遺伝子がほとんど変わっていないのと同じくらい変わっていないと思います。母性や父性、子どもがお母さんやお父さんを思う気持ちは決して変わるものではありません。

I:ただ社会そのもの、子育てを巡る環境は変化してきていますよね。

高橋先生:時代とともに大きく変わったこともあります。一番の変化はインターネット上でおびただしい量の子育て関連の情報が簡単に手に入るようになったこと。しかもそれらの情報は、子育てに関してはほとんど正しい。正しいってところが実は問題でしてね。正しい情報を知るということと、それを自分の育児に取り入れるということは全く別だということを知っておいた方がいいと思います。

I:子育ての正しい情報を取り入れることが、結果的に間違いを引き起こすことがあるというわけですか?

高橋先生:おいしい食べ物であると知っていることと、おいしい食べ物なら何でも食べなきゃいけないと考えることは全然違うでしょう。おいしいものを全部食べていたらお腹をこわしてしまいます。それと同じで、正しい子育て法だからといって、実際にやらなければならないというわけではありません。

I:たしかに…。ネット上に溢れている、正しいと言われている子育てを全部取り入れるなんてできないですね。

高橋先生:子育ては、昔はおばあちゃんや先輩ママの話から基本的な知識を得て、実践していく中で失敗を繰り返しながら親も成長していくものでした。でも今はネットを覗くだけで、正しい育児法とか、子どもの成長をうながす食べ物とか、自分にとって必要のない情報でも目に入ってしまう時代です。そして標準的な育児や“失敗しない育児”と言われるものが気になってしまい、親御さんが自分のしていることに自信を持てなくなってしまう傾向があるんですね。

I:ただ自信がないからこそ、ネットで調べてしまうんですよね。

高橋先生:そこですよ。悪循環ですね。ネット上にある“正しい”育児と自分の育児を比べ始めると、絶対に“負け”ます。そうなると、もう負け続ける育児になってしまう。“ここに注意”というネット記事を見てわが子は発達障害かもしれないと心配になったり、“正常の発達はこれ”という記事を読んで居ても立ってもいられなくなったりする。

I:実際に知っている相手ではないのに、ネット上の子どもとわが子を比べて焦ってしまう……ありがちな事ですね。

高橋先生:子どもたちが成長、発達するスピードは小さいころほど個人差が大きい。ネットの世界が決めた“正常児”と自分の子を比べること自体がナンセンスです。ここで「全ての正常なものにはばらつきがある」ということを強調したいです。歩き始める時期も、お話しするようになる時期も、あるいは身長や体重も。“正常”という言葉が使われていても、その多くが“平均”であり、そこからはずれていたとしても決して“異常”ではないのです。

I:そこは改めて親として認識しておくべきことですね。

高橋先生:子育て期は、子どもと親が向かい合って実体験を積み重ねる貴重な時間です。子どもはいずれ成長して巣立っていきますから、子育ての時間は限られています。そんな時に他人の情報に振り回されて子育てを楽しむことを忘れたらもったいない。子どもたちが日々の生活の中で自ら遊びの種を見つけ、夢中になっているように、まずは自分の子どもを信じ、わが子を思う自分の気持ちを信じ、何をすべきか、何をしてあげたいのか、感じるままにお子さんと時間をすごせば、それが最高の子育てではないでしょうか。子どもたちが遊びに夢中になるように、親も育児に夢中になっていれば、それで十分、それが一番です。親はみんな子育てが終わってはじめて、それがどんなに楽しく貴重な時間であったかを知るものなんです。

I:子育ては本当に大変だけれど、わが子の成長はそれを補って余りある喜びを与えてくれると実感することもしばしばです。今は子どもとすごす時間を満喫して、いい親子関係を築いていきたいと思います。今日も盛りだくさんの内容をありがとうございました!

 

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<プロフィール>
高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 専門は小児科一般と小児神経 1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

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