連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」
のびのびと育てたいけど、自由すぎるのも…親として知っておきたい「しつけの基本」

小児科医 / 高橋孝雄先生

子どものころの「しつけ」は、大人になって役立つこともあります

食事中の家族

I:ここで気になるのは、しつけのアウトカムをどう設定したらいいかということです。もちろんそれを決めるのが親の責任だとは思うのですが…間違っていたらどうしようかと思い悩むのも親(苦笑)。

高橋先生:ははは、そんなに大袈裟に考える必要はありません。アウトカムの設定は「大目標」くらいに大きく捉えていればいいですよ。たとえば、わが子がどんな大人になって欲しいかを1個だけあげるとすれば、どんなことかを考えてみてください。多分「優しい人になってほしい」とか「幸せな人生を送ってほしい」とかでしょう。どんな親も「正座できる人」なんて、ピンポイントなアウトカムを設定しないですよね。

I:たしかに。それくらい大雑把なものでいいということなんですね。

高橋先生:そうです。アウトカムは親と子どもの関係性の中で自然と決まることであって、わが子が大人になった時にその姿を見て「あ、うちはこんな風にしつけていたんだ」と親自身が気付くこともある。なので、そんなに構えずに、こういう子に育ってほしいな、と心に思い浮かぶものをゆるく設定するくらいでいいと思いますよ。

I:わかりました。ただ、親が設定したアウトカムから子どもがどんどん離れていくこともあるのではないかと思うんですが、そんな時はしつけの方針を変えたほうがいいんでしょうか?

高橋先生:しつけでいちばん大切なのは、子どもの立場に立って考えるってことじゃないですか?最終的に親の目が届かなくなっても、しつけられたことを拠り所に考えられる、行動できるようにならなければ、しつけの意味がないでしょう。そのためには、子どもが納得して「しつけを受け入れる」ことが不可欠です。

I:そうですね。しつけは子どものためのものですから、納得して受け入れることができなければ、うまくいくわけはないですね。

高橋先生:はい。でも親だからこそ、子どもの個性に配慮したアウトカムを見つけることができる。そこは自信を持っていただいていいと思いますよ。

I:おっしゃる通りですね。

高橋先生:余談ですが、うちの母の僕に対するアウトカムは「思いやりのある人」だったんですよね。小さい頃から事あるごとに「自分のことだけ考えないで、人の立場になってものを考えなさい」と教えられてきた気がします。成人してからも言われ続けましたよ(苦笑)。

I:そうなんですか?

高橋先生:40歳をすぎて教授になっても(親からすれば)変わらない僕を見て、母はなんとかしなければと思ったんでしょう。「私はもういつ死ぬかわからないから、これだけは伝えておきたい」と手紙をくれたんです。「あなたは賢くて物事を先に先に読むから口がきついと受け取られる。あなたの言っていることは正しいけれど、言われる側があなたに歯向かえない人間だと、恨みをかうこともあるだろう。あなたは、本当は優しい子なのに、そういう誤解をされて他人様(ひとさま)から恨まれることは私には死ぬほどつらい。だから筋が通っている中にも物腰が柔らかい人になりなさい」――そのように切々と綴られていましたね。

I:お母さまのお気持ちが伝わってくる文面ですね。

高橋先生:そうですね。文字通り遺言のような手紙でしたが、母はその後も20年以上生きたんですよ(笑)。でもね、母はそうやって、僕のためのアウトカムを文書で残したかったんだと思います。それは僕にとって、とても沁みるものでした。小さい頃は母の言うことがよく分からなかったんですよね。しつけっていうのは一生続くもので、小さい頃にしつけとして親から繰り返し言われたことは、後々、大人になってから効いてくることもあるんじゃないかと思いますよ。

I:確かに大人になってから、小さい頃に親に言われた言葉の意味がわかってくることがあります。

高橋先生:子どもの頃にしつけがものになる人はあまりいないかも知れない。でも30歳、40歳、50歳と年を重ねて、だんだん世の中のことがわかってきた時に、しつけられたことが役に立つんですよ。個人的な経験から、そう感じています。


大学教授になった高橋先生に「思いやり」を説くお母さまの話は、凛とした親としての姿勢を感じる素敵なエピソードですね。続く記事では、先生にグローバルな視点から、“しつけの方法”を教えていただきます。

高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 

専門は小児科一般と小児神経。
1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

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