高橋先生:赤ちゃんは生後6か月すぎぐらいから、自然にいろいろなものに手を伸ばすようになります。例えば、健診にそれぐらいの月齢の赤ちゃんを連れてきたお母さんに「電車で隣の人に手をのばして、触ろうとしますか?」と聞くとほぼもれなく「ハイ!」という返事が返ってきます。おすわりができるようになって両手を自由に動かせるようになる時期には、目に入ったものすべてに手を伸ばし始めますよね。それは手を使って、いろんなモノを触ってみることで情報を得ている、つまり入力系を鍛えているんだと思います。
I:今のお話で思い出しましたが、うちの子どもたちもまだハイハイの時期に、砂とか芝生の上に座らせると、恐る恐る地面を触って泣いていたんですよね。しばらくすると落ち着いてハイハイを始めるんですけど、ふたりとも全く同じ反応でした。泣きながら砂や芝生を触っていたのは、はじめて触るものの感触を確かめていたんですね。
高橋先生:おそらくそうでしょうね。手でものを触ったり、握ったりすることで、その手触りなど、あらゆる属性を感じ取りながら、危険ではない、触ってもいい、という判断をするところから始まるんでしょう。ところで、目から入る入力(視覚情報)も大変重要で、それをガイドとして手を正しく対象物に伸ばしていくことができるのです。視覚と手というのは常に連動しているわけで、それを表す英語の慣用句として、「hand-eye coordination」という言葉があるんですよ。
I:手を使うことが大切か、というお話をお聞きする上で、いかに指を動かすか、器用に動かすことができるか、という出力系ばかりをイメージしていましたけど、触覚の機能がそこまで大事だとは思ってなかったです。
高橋先生:出力、入力、どちらも大事です。特に最初の12か月ですね。先ほどお話ししたように、個人差はありますが、生後6か月くらいから「わしづかみ」ができるようになり、生後12か月くらいで指先を使って「つまむ」という動作ができるようになります。この約半年の間に入力系と出力系がバランスを取りながら発達していきます。人間の手は放っておいても自然と発達する力を持っているのですから、こういうものを握らせるといいとか、いろいろな触感を経験させなくてはならないとか、そんな難しいことを考える必要はありません。やけどなどの事故がおきないように、ただ見守ればいいのです。時々、「指先を起用に使う運動をさせると頭が良くなる」という説を聞くことがありますが、医学的な根拠はありません。