高橋先生:1歳ぐらいで指が細かく動くようになったら楽しくてしょうがない。それまでは見えてはいても上手につまめなかった小さなお菓子とか、ゴミのようなものまで、飽きずにつまみあげては微笑んでいますよね。日常で出くわすあらゆる物について正しく情報を得るためには、表面の質感や手触りが非常に重要な要素です。手のひらや指先でいろいろな物の感触を確かめることによって、それがどんなもので、どう扱えばいいか判断できるようになるんです。だから、つかみ食べをさせなくてはいけない。食べ物をつかんで、口に持っていく。これは非常に大切な経験です。
I:手を使って食べるという行為のなかに、さまざまな「学び」があるのですね。話は変わりますが、デジタルデバイスは手を使って操作をしますけど、出入力という意味では実体験とはまったく違ったものになりますよね?
高橋先生:おっしゃる通りですね。スマートフォンとかタブレットを介した経験って、画面の中の出来事であり、実際に何かが起こるわけではありません。指をスライドさせただけでモノが飛んだり、人が動くなんてことは実際の生活ではありえないことです。リアルな体験をたくさん積まなければならない乳幼児期に、デジタル機器を使ってバーチャル体験をさせてしまうのは考えものです。
I:そうですよね…。
高橋先生:あまりにスマホばかりを触らせていると、目と手の大事なコーディネーションが破綻して、例えば自分とペットボトルの距離感とか、それを握る時の感覚とかに統一性を持てなくなる可能性もあるのではないでしょうか。子どもが盛んに手や指を使い、触覚から得られる情報によって発達が促される乳幼児期には、なにげない日常生活のなかの普通の体験がとても大切なのだ、ということを覚えておいていただきたいと思います。
I:わかりました! スマホはほどほどに、ですね。そしてとにかく、手を使わせること。特別なことをさせる必要はないけど、日常生活の中で自然に、手を使って様々なことをさせてみることが大事だということがわかりました。本日も大変参考になるお話、ありがとうございました!
遊びや日常生活で、手を使うことで子どもは発達していきます。新型コロナウィルス感染の影響で自宅にいる時間が長いかも知れませんが、家族で折り紙をしたり、積み木をしたり、粘土をこねてみたり……手を使った遊びで楽しいひとときをすごしてみてはいかがでしょうか。
専門は小児科一般と小児神経。
1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。