――本連載が始まったのが、2017年3月1日でした。連載開始当初、「医学生や医師など“専門的知識”のある相手にしか話をしてこなかったので、一般の方にこういう話をするのは新鮮ですね」と語ってらっしゃいました。それが多くのメディアに出演され、一般のママやパパに子育てを語るようにもなり、そして連載そのものが本にもなりました。高橋先生にとって、この3年数か月はどんな期間でしたでしょうか?
高橋先生 前作を出版する前には、このような考え方が受け入れられるものなのか、という大きな不安がありました。しかし驚くべきことに出版後まもなく、お手紙やネット、あるいは講演会の席などで多くの共感を頂き、「ああ、これでよかったんだ」と、やっと思うことができました。一方で、伝えて良かったこと、伝えきれずにいたこと、新たな気付きも多くありました。時がたつにつれ、出産準備サイトの連載で、そして『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』で、ぼくが誰に何を語りかけたかったのか、じわじわと実感していきました。それは先ほどお話ししたように、「大丈夫なものは大丈夫とはっきり強く言ってあげたい」という強い思いです。
――先生の「大丈夫」という言葉はとても響きます。ですがあえてお聞きします。コロナ、そして“新しい生活様式”と、今子育てをしているママやパパは、ある意味「前例のない社会」の中で、しばらく子どもと向き合っていかなければいけません。不安を抱えてらっしゃる方も少なくないでしょう。こうした中、先生が親御さんたちに伝えたいことはなんでしょうか。
高橋先生 新型コロナ感染症に限らず、人間社会は前例のない事態に繰り返し直面してきました。これからもいいことも、悪いことも、前例のない出来事が私たちを待ち構えていると思います。でも、家族、とりわけ子育てについては、「前例のないこと」など何一つないのではないでしょうか。ひとが人として生きることの原点だからでしょう。どんな悩みも、結局のところ、両親の世代、祖父母の世代にさかのぼれば、すべて“あるある”なのでは。すでに、新しい生活様式が始まっています。でも、その中でもずっとずっと変わらずにいることがあるはずです。子育てに前代未聞はないのですから、最新情報に慌てず騒がず、振り回されず、ただただお子さんとの貴重な時間を楽しんで頂けたらいいな、と思います。
専門は小児科一般と小児神経。
1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。