【専門医監修】子宮頸がんとHPVワクチン、日本人が知っておきたい話(前編)

12歳〜16歳の女性は公費でワクチンが接種できます

12歳〜16歳の女性は公費でワクチンが接種できます

――そこでHPV感染症を予防するワクチン接種が必要になってくるんですね。

吉村先生:そうなのですが、日本ではワクチン接種がなかなか進んでおりません。世界では2019年2月時点で92か国(※3)がHPVワクチン接種を国の政策として推進しています。日本でも2013年4月から12~16歳までの女性を対象とした定期接種になり、2価と4価のワクチンの2種類を無料で接種できるようになったのですが、ワクチン接種が原因とされる“副反応”の事例が報告されるようになったことを受けて、2013年6月に「積極的勧奨」を止めてしまい、それが今でも続いています。

――もう7年間もその状態が続いているということですね。“副反応”の事例については、マスコミでも当時、大々的に取り扱われているのを覚えています。その後、専門家の間ではHPVワクチンの“副反応”についてどのような調査が行われ、現状はどう評価されているのでしょうか。

吉村先生:2016年に、厚生労働省が全国規模の疫学調査(※3)を行い、名古屋市でも市民団体からの要請に応じる形で大規模な調査(名古屋スタディ)が実施されておりますが、どちらもHPVワクチン接種と、問題視されていた“副反応”――機能性身体症状(原因が分からない体の不調)の発症――に因果関係は見られないと結論付けています。しかしながら、この事実があまり知られていないように思います。「ワクチンは危ない」というセンセーショナルな報道は広く知られましたが、それを受けて真相を突き詰めるために実施された厚労省の疫学調査や名古屋スタディの結果について知っている方は非常に少ないですよね。そして、いまだにHPVワクチンは怖いという先入観を持たれている方も多いです。怖いと思われている方が多いからこそ、国としても“積極的勧奨”をするという決断をできずにいる。非常によくない状況だと思います。

子宮頸がん死亡率推移(国内)

日本における子宮頸がんの死亡率は増加傾向にあります

――積極的勧奨はしていないけれども、現在も12~16歳の女性は公費で接種はできるわけですよね?

吉村先生:もちろんです。しかし接種率は低いままです。1994年生まれの女性の接種率は56%で、1995年から1999年生まれは70%以上接種されていますが、2000年生まれ以降の接種率は1%(※2)にも満たないのが現実です。

――1%未満ですか…ちなみに公費接種を積極的に実施している海外の国での感染状況はどうなっているのでしょうか?

吉村先生:2006年頃からHPVワクチンの定期接種を始めた国々では、すでにワクチン接種世代の感染率の減少が報告されています(※2)。ヨーロッパやオーストラリアでは、女性の接種率は70%を超えていて、すでに男性への接種も始まっています。

――海外では、ワクチンの副反応は問題視されていないのですか?

吉村先生:過去にアイルランドとデンマークで、日本と同じように副反応を問題視するマスコミ報道がありました。両国とも80%以上あった接種率が半分以下まで低下したのですが、科学的エビデンスが明らかになるにつれ、風向きが変わり接種率が回復しています。正しい情報がしっかり伝われば、状況が変わることはこうした国が示してくれていると思います。

――(日本では)12歳から16歳の女性が公費での接種対象となっているのはどういう理由からでしょうか?

吉村先生:予防接種というのは、基本的に感染前に打つ必要があります。ですからHPVワクチンの接種は性経験前に済ませておいたほうがいいんです。もちろん経験後でも無意味ということはありませんが、ワクチンの効果を最大限に生かすためには、セクシャルデビュー前に打った方がいい。またHPVは子宮頸がんだけでなく、腟がん、肛門がん、中咽頭がんなどの原因にもなります。つまり本来は女性だけでなく、海外のように男性にも積極的にワクチンを接種した方がよいと思います。こういうお話は、子どもたちが幼いうちは真剣に考えられないかも知れませんが、愛するわが子の将来を考えた時に、不安なことがひとつでもなくなるように、親としてHPVワクチン接種を勧めていただきたいと思っています。


海外の先進諸国では、HPVワクチンの接種率が上がり、ワクチン接種世代の感染率減少が明らかになっています。そして男性への公費接種も始まっています。一方、積極的勧奨を止めている日本について、世界保健機関(WHO)の諮問委員会は日本の対応を強く非難する声明を出しています。下記に参考リンクを載せていますので、あわせてご一読ください。

<参考資料>
吉村泰典(よしむら・やすのり)
慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医

1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

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