【小児科医・高橋孝雄の子育て相談】
子どものコミュニケーション能力はどうやって育む?

小児科医 / 高橋孝雄先生

自分の考えを伝え、相手の意図をくみ取って、感情を共有する相互理解の能力=「コミュニケーション能力」。コミュニケーション能力の有無は、その人の人柄や人格を判断する上での重要な指標になっています。また、文部科学省でも、コミュニケーション能力を「人間関係を形成していく能力」と定義づけ、平成22年からコミュニケーション教育の推進に乗り出すなどしています。そこで素朴な疑問。コミュニケーション能力とは幼少期の育て方で左右するものなのでしょうか――慶應義塾大学医学部小児科教授の高橋孝雄医師に伺いました。(本記事はミキハウス出産準備サイトにて2018年6月14日に配信された記事の再掲となります)

高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 

専門は小児科一般と小児神経。
1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

そもそもコミュニケーション能力は測れません

そもそもコミュニケーション能力は測れません

I:今回は、「子どものコミュニケーション能力」をテーマにお話を伺いたいと思います。僕は社会人になって、いわゆる“コミュニケーション能力”の重要性を実感することが多いのですが、自分の子どもやその周囲の子どもたちを見ていると、コミュニケーションが上手な子と、そうでない子がいるように思います。この差はどこから来るのでしょうか?

高橋先生:まず、最初に断っておきたいのは「コミュニケーション能力」というもの自体を測ることは難しいということ。つまり共通の基準をもとに有無を決めつけることは、本来できないものだと思います。100m走のタイムとはちょっと違いますから。IQなんてものも正確に測るのは困難ですからね。コミュニケーション能力はその最たるもので、特に相手あってのこと。相対的なもののはずなのに絶対的な評価をしようとしている時点でちょっとおかしい。

I:そう言われてみればそうですね。今回は質問自体がおかしかったでしょうか……。

高橋先生:いや、ある意味核心をついているとは思います。どういう観点でその有無を判断するかについて考えましょう。結論から言うと、その場に合った正しい方法でコミュニケーションできるか否かではないでしょうか。

I:その場に合った正しい方法とはどういうことでしょうか?

高橋先生:日本で大多数の人が使うコミュニケーション手段は、日本語による言葉のコミュニケーションですね。言葉が通じた上で、考えや気持ちを分かり合えるのがコミュニケーションということになるわけです。一般的に「コミュニケーション能力が低い」と表現されるのは、それが苦手な人ということになりますが、正確に言うと、意思の疎通ができる相手が少ない人ということなんですね。

I:なるほど、なるほど。

高橋先生:極端な例を挙げると、画家のゴーギャンとゴッホは、普通の人から見たらコミュニケーション障害ではないかと思えるような言動もあったと言われていますね。まわりからすれば二人は変だったと。でも、この二人はすごく仲が良かったんです。それは二人の間では、互いにしっかりコミュニケーションが取れていたからだと思われます。一方で、彼らの絵画作品にはものすごく説得力があって、時代を超えて人々に感動を伝えることができていますよね。非常に特異な形ではありますが、これも高いコミュニケーション能力の為せる業(ワザ)といえるのではないでしょうか。

I:たしかに仰るとおりですね! ……で、先生、今回は子どものコミュニケーション能力がテーマになりますので、時代を超えない範囲でのお話をお願いいたします。

高橋先生:はいはい(苦笑)。コミュニケーションの方法の違いは子どもでも見られます。一般に女の子は言葉によるコミュニケーションが得意。

I:たしかに子どもの集団をウォッチしていると、女の子の方が言葉でコミュニケーションを積極的に取っている子が多いような気もします。

高橋先生:一方で男の子の場合は、おしゃべりでコミュニケーションするより、追いかけっこでどっちが速いか、体のぶつけ合いでどっちが強いかとか、競い合ったり一緒に行動することでコミュニケーションを取っていくんですね。

I:それも納得できます。子どもの頃から、男女でコミュニケーションの取り方に違いがあるものなんですね。

高橋先生:ええ、男の子と女の子で違うし、当然女の子の中、男の子の中にもいろんなタイプがいる。ちなみにコミュニケーションの方法が似ているとだいたい仲良しになるものです。

I:そもそも論として、子どもの頃からコミュニケーションの仕方には「個性」があるものなんですか?

高橋先生:あります。子どもの頃に現れた個性は、ある意味自然な姿であって、大人になると目立たなくなりますけれど、本質的にはずっと変わりません。男にとってのコミュニケーションの方法は基本的には競争と言いましたが、《かけっこでお友だちに負けたくない》という気持ちと、《自分の家族はよその家族よりも幸せだと自慢したい》気持ちは、本質的には同じ。他者とのコミュニケーションを取るなかで、どこかで負けてられないっていう気持ちを抱くことは、男性としては健全なんですよ。つまり、男性は非常に相対的で、人と比べる傾向があります。誰かと誰かを比べた時に、自分が勝っていると思いたいんです。

I:それだけ聞くと男ってなんかめんどくさいですね……男の僕が言うのもなんですが(苦笑)。

高橋先生:逆に女性の場合は相対評価じゃなくて、絶対評価。わが子のことでも、その子が良ければいいと思えるのが本来の女性の姿で、他の子とあんまり比べない。ただ、最近のママは子どもの成績とか、お受験がどうだとか、ピアノもどっちがうまいとか結構比べる傾向がありますよね。そうなるとママは本来の女性の良さを失ってしまうというか……。あくまで本来の性質としては、女性は他者と比べるような傾向は薄いし、またそれに基づいたコミュニケーションの取り方はあまりしないということです。

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