【専門医監修】保険適用前に知っておきたい 不妊治療の基礎知識
〈part1:不妊について〉

菅内閣は今年9月、急激に進む少子化への対策として2022年4月をめどに不妊治療の保険適用を開始する方針を打ち出しました。2015年には、5.5組に1組のプレママ・プレパパが不妊の検査や治療を受け、2018年に生まれた子どものうち約16.1人にひとりが不妊治療によるという(※1)現状を踏まえ、社会的なニーズの高まりに応える政策として注目を集めています。

そこでミキハウス出産準備サイトでは、3回にわたって不妊治療の問題を取り上げ、不妊と治療の実情、保険適用がもたらす影響などについて考えていきたいと思います。お話を伺うのは、2004年に始まった特定不妊治療助成金制度の導入と運用にも深く関わってきた、慶應義塾大学医学部名誉教授で産婦人科医の吉村泰典先生です。

第1回目の今回は「不妊治療の基礎知識〈part1:不妊について〉」と題し、不妊症の定義、不妊の原因などについて教えていただきましょう。

【監修】吉村泰典(よしむら・やすのり)
慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医

1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

避妊しない性生活を1年以上続けても妊娠しないことを不妊症と呼びます

避妊しない性生活を1年以上続けても妊娠しないことを不妊症と呼びます

「人口減社会を考える」と題した2015年の厚生労働白書(※2)には、少子化の原因として女性のライフプランの変化による非婚化や、晩婚化に伴う平均出生数の減少に加えて、不妊に悩むプレママ・プレパパの増加も取り上げられています。

WHO(世界保健機構)は不妊症を「妊娠を希望する男女が避妊しない性交を12か月以上続けても妊娠しない場合の男性、または女性の生殖器系の疾患(※3)」と定義しています。

「健康なカップルの場合、避妊しないで月5~6回程度の平均的な性生活(日本の場合)を送っていれば、90%が1年以内に妊娠するというデータを基にして定められたものです。ただ最近、不妊症の割合は増加していて、日本では20%近くのカップルが不妊の悩みを抱えていると推定されています」(吉村先生)

妊娠が成立するためには、①排卵前の女性の子宮内膜が着床の準備を整え、②排卵が起き、③性交によって卵子と精子が受精卵になって、④子宮内に着床する――これらの過程が、すべて順調に進行することが必要です。見方を変えると、あらゆる要素がタイミングよく揃わなければ妊娠は難しいということです。

「何の問題もない女性と男性でもなかなか妊娠しないことがあって、不妊症の診断は困難なもの。男性か女性、どちらかに原因が見つかるものもありますが、約2割は原因がわからないんです」と先生。“不運な偶然”が重なって、なかなか妊娠しないというケースも少なくないそう。

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