吉村先生:繰り返し申しますが、産科医の立場から言わせていただくと、今の日本で出産を迎えることにことさら不安を抱く必要はありません。コロナ禍にあっても、日本では非常に安全に出産できます。しかしながら安全と安心は違う。事実コロナ感染が拡大して以降、産科への出産の予約数が減少しています。
――令和婚と呼ばれた昨年は、結婚して赤ちゃんを授かったママ・パパが多かったので、今年度の出生数は83万人ぐらいになると言われていましたが、気になるのは来年度ですよね…。
吉村先生:そのとおりです。現在今年の1月からの分娩予約は2割以上減っています。今年の出生数は確実に80万人を割り込むでしょう。なぜそうなるのか。やはり、それは経済や雇用など、将来に対する不安ですよね。いくら医者が「安全ですよ」と言ったところで、安心して妊娠や出産に前向きになるのは難しい。
――たしかに…。
吉村先生:将来への不安は、少子化を加速させてしまう一番の要因です。行政には子育て世代の将来に対する不安を払拭し、コロナ禍を乗り越えるための政策を打ち出してもらいたいと切に願っていますよ。
――こんな時だからこそ、赤ちゃんや子どもたちの未来に向かうエネルギーが社会を明るくしてくれるのではないかと思います。子どもたちの未来のために、今私たちができることはありますか?
吉村先生:「コロナを正しく恐れること」ですね。このウイルスは感染力が強いけれど、病原性(※)はそれほど強くありません。血管性の疾患があると重症化のリスクが高くなりますが、ほとんどは感染したとしても無症状か軽症です。故に、まったく恐れずに、感染対策が疎かになっている人もいるかもしれませんが、それは違う。恐れないのではなく、正しく恐れてください。コロナ禍だからといって子どもが産めないなんてことはないですし、子育てにしても制限があるなかで難しい部分もあるかと思いますが、決して育てられない状況ではありません。
――そう力強く仰っていただけると、少し安心できます。ちなみに先生の言う「正しく恐れる」とは、具体的にはどういう意味でしょうか。
吉村先生:散々言われていることですが、3密を避け、マスクを着けて、部屋はこまめに換気し、外から帰ったらすぐに手を洗うといった感染予防の基本を守ることです。また外出先でできるだけモノに触らない工夫も必要でしょう。タッチパネルとか手すりとか、無意識に触りがちな場所に気をつけたいですね。触った場合は手洗いやアルコール消毒を忘れずに。そうした基本動作をしっかりすることが「正しく恐れること」だと思いますね。
――逆に言うと、それ以上のことに神経を尖らせるのは…。
吉村先生:個人的には過剰だと思っています。それによって社会が殺伐としていることが気になります。このなんとも言えない殺伐とした空気が、子どもを産みたい、育てたいという妊婦さんやパートナーの気持ちを阻害しているような気がしてなりません。もう少し、心にゆとりをもって春を迎えたいものです。そう、春はいつかやってくるのです。
コロナ禍の中、産科の医師はプレママと赤ちゃんの健康を守るために一生懸命がんばってくださっていることを知って、妊娠・出産への不安が軽くなったプレママ、プレパパもいるのではないでしょうか。マスク着用や外食の規制でちょっと窮屈な日常でも、一人ひとりが自分にできる予防策を心がけて、一日も早く穏やかな日常を取り戻したいものですね。
- <参考資料>
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※新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置について(厚生労働省/2020年12月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000628247.pdf - ※病原性とは:ウイルスなどの病原体が、他の生物に感染して宿主に感染症を起こす性質・能力のこと
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※新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置について(厚生労働省/2020年12月)