I:まったく子どもが愛せないわけではなく、十分に愛せているのか自信がない、みたいな人だったらどうでしょうか? そこに葛藤がある方のパターンです。
高橋先生:葛藤がある、十分に愛せていないのではと悩んでおられるのであれば、愛があるということの証だと思います。本当に愛情のない人は、そこに迷いはない。子育てについても「自分はちゃんとしている」と思っていますからね。もっとできるはずなのに、できていない。あるいは、もっとかわいがれるはずなのにと悩んでいるなら、それは先程お話しした“病”とは別物だと思います。
I:その自覚があること自体が、ある意味で「正常」である証だということですね。
高橋先生:一方、気をつけた方がいいのは背景に先ほどお話しした愛着形成の問題、つまりアタッチメント障害がある場合です。そうなる原因として比較的多いのは、そもそも望まない妊娠だったという場合です。妊娠中から拒否感があっては、赤ちゃんと愛着形成することは難しいはずです。産むという選択をいやいやながらしたことに葛藤もあるでしょうから。
I:とても残念なことですけれど、そういう形で出産される方もいらっしゃると。
高橋先生:現実にはそうです。一方、愛着形成を阻むものとして、生まれて間もないころに「何か」があった、ということもあるようです。治療する時は、そこを深堀りすることもあります。その結果、治療の目的で、生まれたころの状況を思い返して頂くために、親子とも“赤ちゃん返り”させたりすることもあるんです。
I:親子とも赤ちゃん返り…って、どういう治療ですか?
高橋先生:乳児期早期に親も子も安心して互いに寄り添う感覚が育たないと、その後の愛着形成が難しくなることがあります。小さなころから親の愛情を感じることなく孤独感に苦しみながら、しかし一見“立派に“育ってきた子が摂食障害になることは珍しいことではありません。そのような場合、親子の愛着形成を最初からやり直す必要があります。親子ともに「あの頃」に戻ってもらうんです。
I:あの頃に戻る?
高橋先生:はい。実際に、お母さんに中学生の娘を抱っこし、哺乳瓶でミルクを飲ませていただくこともあります。赤ちゃんの頃に自然に行われるはずの本能的な仕事を積み残してきた…それを補うためにやってもらうんです。
愛着形成の”クリティカルピリオド“(=親子間で互いに愛着が形成されるために特に重要な期間)に、親子ともども相手が大切、居心地がいい、という感覚を見失ってしまった。こういうケースは意外と多いものです。いずれにせよ、「子どもを愛していると実感できない」と本当に悩んでいるなら、一度病院に行かれたら解決の糸口が見つかるかもしれませんよ。