高橋先生:もうひとつ、産後うつになり「子どもに愛情を感じない」と悩むお母さんも少なくありません。
I:産後うつについては過去記事でも取り上げていますが、最近はコロナ禍の閉塞感や不自由さなどから産後うつになるママが増えてきているという報告(※)もあり、気になっています。
高橋先生:子育てしながら仕事を続けること自体が否定されることはほとんどなくなったと思います。一方、出産・子育てのためとは言え職場に迷惑をかけるのは…という遠慮もあるし、「子どもをちゃんと育てなくては」というプレッシャーを感じている方も多いでしょう。そこにコロナ禍が起きてしまって、孤立した育児、不自由な日常、緊張感で満たされた生活によってさらにストレスが蓄積し、産後うつが増えてしまったということはあるでしょうね。
I:コロナ禍で孤立しがちなお母さんが「子育ては難しい」、「できそうもない」と思ってしまうことも多くなったんでしょうね。
高橋先生:産後うつでは、子どもをかわいいと思えない自分を責めてしまう。「私は母親失格だ」とか「虐待してしまうのではないか」と自分で自分を追い詰めてしまいます。赤ちゃんが生まれたことをきっかけに、子どもを愛することの困難さに気付いてしまった。子育ては辛いもの、と心に刷り込まれてしまうのが苦しみの本態のようにも感じます。
産後うつという言葉が広く知られるようになり、ご自身も周りの人もその状態を早めに認識できるようになってきたために“増えた”ということもあるでしょうね。
高橋先生:命はいくつもの奇跡が重なって生まれるもの。子どもは生まれてきてくれただけでいいんです。最近の社会は、子育てを思い切り謳歌できない状況になってしまっているのではと心配ですね。
I:産後うつからの回復にはパパをはじめとする周りの人たちの理解が欠かせないといわれていますね。具体的にはママの産後うつにどう向き合ったらいいのでしょうか?
高橋先生:以前の記事「子どもに否定的な言葉を使うのはNG?」でポジティブな言葉とネガティブな言葉は相手の状況によって意味合いが逆転するというお話をしたんですが、産後うつの場合も同じです。
周りの人が励ましのつもりで「自分の赤ちゃんなんだから、かわいいものよね」とか「できる範囲でいいからがんばってお世話しなきゃね」と声をかけると、お母さんはますます辛くなってしまいます。
I:そうですね。つらい思いをしている人に「がんばれ」と言ってしまうのは、かえって相手を追い詰めてしまうこともあるというお話でしたね。
高橋先生:まずはお母さんの気持ちに寄り添ってあげることです。産後うつで思うように赤ちゃんのお世話ができないお母さんに必要なのは「辛いよね」、「できないなら無理しなくていいよ」という声かけです。その悩みをそのまま受け止めてあげることで、お母さんは少しずつ前向きになれることもあるようです。
お父さんはなかなか気付かないこともあるようですが、パートナーの産後の様子を見て少しでも気になることがあったら、まずは寄り添い、気持ちを聞いてあげることから始めてみてはどうでしょうか。
I:先生のお話を伺って、「わが子を愛せない」と感じることと、「わが子を十分に愛しているだろうか」と悩むことは、似ているようで全く違うことだと気づきました。ほとんどのママ・パパにとって子どもは宝物だけれど、時には我慢できなくなることもあるものです。そんな自分を反省しながら、子どもと一緒に成長していければいいのかなと思います。本日もいいお話をありがとうございました。
- <参考資料>
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※令和3年版厚生労働省白書(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000810636.pdf
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※令和3年版厚生労働省白書(厚生労働省)