妊娠はするけれども、流産、死産などを2回以上繰り返し経験するなど出産できない状態のことを「不育症」と呼んでいます。どうして不育症は起こるのか? 原因はなにか? どんな人が不育症になりやすいのか? また治療法はあるのか? 不育症について現時点でわかっていることについて、慶應義塾大学名誉教授で産婦人科医の吉村泰典先生にお伺いします。
不育症とはどんな状態のことを指す?
「不育症」とは、妊娠はするものの流産や死産を繰り返して生児(生まれた子)が得られない状態のことを指します。一般的には、原因にかかわらず流産・死産を2回以上経験することで不育症とみなされます。かつては「習慣(反復)流産」といわれていましたが、最近は不育症という用語が使われるようになっています。
そもそも流産自体は決して珍しいことではなく「知らないうちに流産経験をされている方も多い」と吉村先生はいいます。
「実は、妊娠した女性の約40%が流産しているといわれています。でも、多くの方はそのことを認識していません。妊娠をしているけれども、それを確認する前に流れているケースはかなりあるのです。その多くは偶発的流産で、特に健康問題のない人にでも起こりうるものです。
ちなみに医療機関で確認された妊娠の10〜15%前後は流産するといわれているので、流産自体は珍しいことではありません。その中で、妊娠12週未満の早い時期での流産が8割以上を占めます」(吉村先生)
妊娠検査薬などで検査して陽性が出たけれども、クリニックでの超音波検査で胎嚢が確認できないという経験をされた方もいらっしゃるかもしれませんが、これは「生化学的妊娠(化学流産)」と呼ばれるもの。ある意味で、妊娠検査薬の感度が上がったため“可視化”されるようになった流産で、以前はそのことも自覚しないことがほとんどだったそうです。
なお不育症は流産・死産を2回以上経験することと定義されていますが、こうした超初期段階での流産などはカウント対象となりません。
「つまり妊娠の超音波検査などで胎嚢を確認した後に、2回以上の流産・死産を経験すると不育症とみなされるということです。出産経験はあるけれども、第二子以降の妊娠で流産・死産を2回以上繰り返す場合も不育症です。
一方、妊娠10週の大きさ(約3cm)まで成長した後に流産した場合は、次の妊娠においても流産を起こすかもしれない『抗リン脂質抗体症候群』の可能性もあるので、たった1回の流産であっても、産婦人科で検査を受けることをお勧めします」(吉村先生)
2回以上の流産を経験する頻度は妊娠した女性の4~5%と考えられています。これをどう捉えるか人によって判断は変わってくるかと思いますが、吉村先生は「不育症は妊娠する女性にとって、誰に起きてもおかしくはない疾患です」と指摘。
「これは我々、産婦人科医の責任でもあるのですが、日本では子どもの頃から正しい性の知識、妊娠や出産のメカニズムを丁寧に教えてこなかったように感じています。妊娠しやすい時期を“危険日”のように認識し、そこを避ければ妊娠しなくて済む――という見方で若い女性も男性も考えるようになっていて、あたかも避妊をせず性交渉をすれば『誰でも』『すぐに』妊娠できると思っている。もちろん、まったくそんなことはありません。
妊娠も出産も、ある意味で“奇跡”が重なった結果。そんなに簡単に妊娠することも、子どもを持つこともできないという事実を、本気で子どもを望む段階になってはじめて知る人も多いんです。そして不育症も妊娠した女性の5%近くもいるんです。妊娠してもおなかの中で赤ちゃんを育てにくい方がこれだけいるということを、もっと多くの方に知っていただきたいと思います」(吉村先生)