妊娠したけど流産を繰り返してしまう「不育症」 原因と治療法について

不育症であったとしても子どもを授かることができます

不育症であったとしても子どもを授かることができます

不育症と診断されると、目の前が真っ暗になる…と思われるかもしれませんが、実は不育症の方も、70%以上の方が出産することができます(※1)。

ただし不育症を経験した妊婦さんは、癒着胎盤、子宮内感染、血栓症を起こしやすく(※2)、早産、妊娠高血圧症候群、帝王切開の頻度が高くなるという報告もあります(※3)。一方で、生まれてくる赤ちゃんの先天異常、染色体異常、新生児仮死の頻度には差がないともいわれています (※2)。

「不育症だからといって、子どもを持つことを諦める必要はありません。繰り返しになりますが、不育症の多くは偶発的流産で、検査をしてもリスク因子が検出されないことが60%以上。リスク因子がはっきりしている子宮形態異常や抗リン脂質抗体症候群などの場合も、治療をすることで予後は良好となるといわれています。

ただし、年齢が上がるにつれて、流産率は増加することは前提知識として持っておいてください。ご存知の方も多いかと思いますが、35歳以上になると流産率が増加し、40歳以上では40~50%の流産率となります。また喫煙、過度のアルコール摂取、過度のカフェイン摂取も流産のリスクとなります。また肥満も流産のリスクとなりますので、全般的にいえることは生活習慣を正しくすることが、健全な出産の大前提となります」(吉村先生)

妊娠したけど流産を繰返してしまう「不育症」 原因と治療法について

流産は誰にでも起きうること。また2回以上の流産や死産についても、妊娠女性の5%が経験していることでもあります。妊娠をし、そしてお腹のなかで子どもを育て、出産することは「とても尊い経験でありつつ、決して簡単なことではない」と吉村先生は強調します。

「流産は1度であっても、とてもつらいものです。男性もそうですが、特に女性は流産を自分のせいだと責めてしまったり、そのことで精神的に不安定になる方もたくさんいます。でも、その原因はほとんどは両親に原因がないので、女性も男性も子どもを失った責任を感じないでほしいと思うんです。

そして流産を経験した女性になにより必要なのは、パートナーの精神的サポートです。子育てだけでなく、妊娠や出産だって女性ひとりではできません。全力で女性を支え、二人で子どもを生むという意識をパートナーが強く持つことが大切です。とにかく女性をひとりにしないでほしいと思います」(吉村先生)

流産や死産を繰り返す不育症の女性は、不安を持ったり抑うつ状態になることは珍しいことではありません。その心の揺らぎ、不安感は、次の妊娠時にさらに強まっていくと言われています。

「そうした状況で、どんな治療よりも効果が見込めるといわれているのは、テンダー・ラビング・ケア(Tender Loving Care)です。文字通り、“優しく、愛情を持って女性をいたわる”という治療法で、妊娠前~妊娠中にこれを行うことで生児獲得率が上昇することが国内外で報告されています。

2回、3回と流産を繰り返して、精神的に追い込まれている女性を救えるのはパートナーだと思うんです。二人で力を合わせて、さまざまな困難を乗り越えて生まれてくる赤ちゃんとの出会いは本当に特別なもの。我々、医師もその出会いのお手伝いをしたいと思っています」(吉村先生)

 

【監修】吉村泰典(よしむら・やすのり)
慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医

1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

  • ※1「Morita K, et al. J Obstet Gynecol Res. 2019; 45: 1997-2006.」
  • ※2「Adverse pregnancy and perinatal outcome in patients with recurrent pregnancy loss: Multiple imputation analyses with propensity score adjustment applied to a large-scale birth cohort of the Japan Environment and Children’s Study.」Am J Reprod Immunol. 2019 Jan;81(1):e13072.
  • ※3「Miscarriage matters: the epidemiological, physical, psychological, and economic costs of early pregnancy loss」Lancet. 2021 May 1;397(10285):1658-1667.

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