
イクジイ、イクバアの心得としてひとつ言っておきたいのは、子育ての主は親であるということ。おじいちゃん、おばあちゃんの役割は、お父さん、お母さんのサポートとバックアップです。何かあったときの受け皿であることを忘れないでいてほしいといつもアドバイスしています。
いまは晩婚、晩産化で、女性が仕事をもちながら子どもをもつケースも増えています。その場合、子どもの面倒をみる戦力としておじいちゃん、おばあちゃんが求められがちですが、女性が働くことに対してまだまだ理解を示せない方もなかにはいらっしゃいます。
そして、つい口出ししたくなってしまうもの。手も出すが、口も出すという。「男は外で働いて女は家庭」とか、3歳になるまでは母親のもとで育てるのがよいという「3歳神話」をよしとした価値観で生きてきた方々は、子どもを小さいうちから保育園に預けて、母親が社会復帰をしてキャリアを伸ばすことに対して、いろいろと言いたくなってしまうんですね。
また、昔は「抱き癖がつくから抱っこはダメ」とか、「1歳になったら断乳しなくてはいけない」などと言われてきましたが、今は話がガラッと変わってきています。それなのに、昔の子育てを押しつけてしまうことも。
自分はこうやって子どもを立派に育ててきたという自負があるのは、よくわかるのですが、子育てのトレンドや常識は時代とともに変化します。「抱っこはダメ」と思っているおじいちゃん、おばあちゃんには、「抱っこはいっぱいしてあげたほうが心の安定した子に育ちますよ」と説明して、科学的根拠を示すこともあります。
実は今のイクジイ、イクバア世代も、自分たちの親世代の子育てから、アメリカ式を取り入れて新しい子育てを始めた人たちです。母乳よりもミルクがいいといったトレンドがあったり、『スポック博士の育児書』が世界的なベストセラーになったり。だから、彼らも自分の親の世代と確執があったはずなのですが、それを忘れてしまっているのです。
一方、子育てしていた時代に、専業主婦の多かった世代でもありますから、子育てに参加していない父親が多いのも特徴です。そのため、昔の子育ての常識がわかっていない分、イクバアよりイクジイのほうが、今のトレンドを取り入れやすかったりします。

僕が知っているイクジイで、娘さんの家族と同居しながら農園をやったり、野菜ソムリエの資格を取ったりして活躍されている方がいます。そういうコミュニティって女性ばかりのことが多いですが、地元のお母さんたちともつながって、ちょっとちやほやされている(笑)。いやらしくなくて、ファッショナブルで、娘さんやお孫さんと一緒に買い物に出かけ、H&Mなどでコーディネートしてもらうこともあるそうです。
おしゃれなことをまわりの人から「いいね」と言われると、おじいちゃん自身も気分がいいし、娘さんもお孫さんもうれしそう。現役時代はまじめなサラリーマンでも、引退後に新たな趣味をもって、孫や子どもたちと接しているおじいちゃんはけっこういらっしゃいますね。