現役世代が、イクジイの力を借りて、お互いに気持ちよく子どもを育てるには、彼らに感謝の気持ちをもつことと、彼らのプライドを尊重することだと思います。
僕は「役託労(やったね)、おじいちゃん」という言葉をつくりました。これは、イクジイに役割を与えて、託して、労うという意味。まずは、近くに子どもとお出かけするくらいの小さなことからお願いして、口出しはせずに託して、うまくできたら感謝の気持ちを表すということです。最初は失敗するし、常識外れなこともやってしまうかもしれませんが、イクジイは今まで社会で責任のある仕事をやってきた人で、プライドがある。だから、きちんとお礼を言って、少し持ち上げてあげるのが大事です。そうすれば、子どもを中心に置いた、とてもいい関係が築けるはずです。
遠慮があったり、確執があったり、逆に極端に親に依存したり、便利に使おうとしたり…とバランスの悪い、現役世代とジジババ世代の関係があることは否めません。基本は親しき中にも礼儀ありということ。これを忘れてはいけないと思います。
地域の子どもと高齢者をつなぐ
ひとつ上の世代の “イクジイ” “イクバア”
僕は、実の孫とおじいちゃんの関係だけでなく、地域の子どもと高齢者のつながりももっと広がればいいのにと思っています。たとえば、震災のとき、帰宅困難になる人が出て、子どもを保育園に迎えに行けないといった問題が起こりました。平日の昼間は現役世代の大人は働きに出ていて街にいないのですが、地域のおじいちゃん、おばあちゃんはそこにいました。子どもにとっても親にとっても、地域に知り合いのおじいちゃん、おばあちゃんがいることが、セーフティーネットになるのです。また、不審者対策にも一役かってくれるでしょう。
これは、おじいちゃん、おばあちゃんにもメリットがあります。認知症を患ったりすれば、若い世代に知り合いのいることが自分たちのセーフティーネットになります。
また、地域のおじいちゃん、おばあちゃんは、子どもにとっての実のおじいちゃん、おばあちゃんよりも、さらに世代がひとつ上だったりします。そうなると、さらに教えられることがでてきます。戦後の日本が貧しかった時代を体験しているからこそ伝えられる“もったいない”の精神や、昔の独楽遊び、古き良き日本の伝統文化など、現代人が失いつつあるものを子どもたちに教えてほしい。そのようなコミュニケーションを通じて、子どもたちは年輩者を敬うこと、また弱者への思いやりなどの情緒が養われ、ヒューマンスキルが磨かれます。
今の時代、自分で抱え込みすぎて我慢している大人は多いですよね。小さいときから親しくしているおじいちゃん、おばあちゃんがいれば、子どもが思春期になったときに親はわかってくれない、親には言えないといった相談ができるし、逃げ道にもなると思います。これからの未来を担う子どもたちの支えになれるのが、おじいちゃん、おばあちゃんなのです。
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村上さんが提唱している、イクジイプロジェクトのスローガン「笑っているおじいちゃんが社会を救う」の意味がわかったような気がします。イクジイ、イクバアに子育ての一部を託すことで、子どもはもとより、パパもママも笑顔になれ、地域全体、日本全体も明るくなれる予感がします。

【プロフィール】
村上 誠(むらかみ・まこと)
NPO 法人ファザーリング・ジャパン理事、イクジイプロジェクト リーダー
1971 年、千葉県市川市生まれ。東京理科大学理工学部建築学科卒。グラフィックデザイナー、兼業主夫。父、妻、小学3年の長男、2歳の次男の3世代5人家族。「孫育て講座」の講師として日本各地で講演し、イクジイの存在にスポットを当て、イクジイの育成に取り組んでいる。