英語教育をどこまで徹底してやるかということ以前に、大切なのは“まずは母国語をしっかりと身につけること”と池谷先生は母国語の能力の重要さを指摘します。母国語の国語力がなければ第二外国語も育たず、大人になって結局どちらの言葉も中途半端となる危険性があるそうです。
さらに、「私たちを取り巻く時代や環境の変化についてもしっかりと認識しておくべき」という指摘も。スマートフォンやダブレット端末などのデジタルデバイスの技術革新は目覚ましく、「あと10年もすれば翻訳はすべてAI(人工知能)がやってくれる時代になる」と池谷先生はいいます。子どもたちが大人になった時に重要視されるのは、もはや“語学力”ではないということも念頭に置いた上で、英語教育を考えるべきと。
「近い未来、英語が話せるか話せないかは前世代的なモノサシとなることは確実。英語力よりも大切なのはきちんと伝える言葉が話せるかどうか。人の気持ちに届くコミュニケーション力があるかどうかだと思います」
さらに、スマートフォンやタブレットの音声アシスト機能を活用するのも、手軽にできる英語教育のひとつだと教えていただきました。子どもの耳が英語になじんできたら、タブレットに向かって英語で話しかけると、その言葉がきちんと英語で認識されているかがわかるので発音の確認と練習になるそうです。「ちなみに私は英語の発音がダメなので、これでやっても半分以上認識してくれません」と笑う池谷先生の2歳の娘さんも、このタブレットを使った方法で英語学習を楽しんでいるとか。
そして最後に、英語教育において大切なのは“統計的な傾向と自分の子どもは別に考えること”話してくださいました。「世の中には、実にさまざまな英語の教材があふれていますが、他の子どもに効果があったからといって、自分の子どもに効果があるとは限らないし、その逆もあります。一人ひとりの特性やその時の成長段階に合わせて英語を学ぶ環境を考えてあげることが重要です」
日々、教える立場で生徒たちに接する池谷先生は、「教育とは自分の理念を押しつけることではく、親や先生がいなくてもひとりでやっていけると言える人間になってもらうこと」と言います。
子どもの英語教育も、結局はひとりで生きていけるコミュニケーション能力を身につけることのひとつ。親にできることは、子どもの特性をじゅうぶんに観察しながら、忍耐強く英語を身につける環境を整えてあげることなのかもしれません。
【プロフィール】
池谷裕二(いけがや・ゆうじ)
薬学博士、東京大学薬学部 教授。神経科学および薬理学を専門とし、海馬や大脳皮質の可塑性を研究する。脳科学の知見を紹介する一般向けの著作も多数。育児雑誌『月刊クーヨン』(クレヨンハウス)では娘の成長を綴る「脳研究者パパの悩める子育て」を連載中。