卵子老化には二つの意味があります。ひとつは、「卵子の数が減る」ということを指します。女性は胎児としてお母さんのお腹の中にいる5ヶ月のときがいちばん卵子を持っていて、数は700万個ほど。その後、お腹の中から出て生まれたときには、すでに100万個から200万個の間くらいになっています。さらにずっと減りつづけて、最終的に閉経時には1000個以下になります。
もうひとつは、「卵子の1個1個のクオリティが下がる」ということ。高齢になると受精しづらくなるなどの変化が現れ、妊娠したとしても、残念ながら妊娠合併症が増えてしまうんです。これは妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、前置胎盤、常位胎盤早期剥離などです。高齢出産では、妊娠糖尿病は5~8倍に、高血圧症候群は3~4倍に増えます。また、妊娠しても流産が増えてしまいます。圧倒的にリスクが高くなるんです。
現在、日本では出産する人のうち、約20%の人が高齢出産ですが、リスクを避ける意味でも、僕はもっと多くの女性が安心して妊娠適齢期に出産できるような環境を作らなくてはいけないと思います。けれど、それは早ければ早いほどいいということではありません。10代の妊娠は別の意味で危険を伴います。子宮が成熟していないので、胎児死亡や出血などの危険性があるんです。
ライフプランを見直し男女ともに意識の変化を
- 妊娠は早すぎても遅すぎてもいけない。現代の日本の現状を考えると、とりわけ“後回し”にすることは避けたほうがいいのですね…。
女性のみなさんには、ぜひ、ライフプランを見直してほしいと思います。適齢期で産むことは母体にも子どもにとっても望ましいことなんですね。日本は女性が責任のある仕事をしながら結婚し、子どもを産み、育てることが難しい国。僕のまわりのドクターも優秀な人はたいてい女性ですが(笑)、男性と同じように働くのは簡単なことではありませんよね。女性のからだや妊娠、出産に対する教育を男女ともに受け、正しい理解をする。そして、社会、企業、男性の意識を変えるべきときだと思います。
【プロフィール】
吉村泰典(よしむら・やすのり)
1949年生まれ。産婦人科医、慶應義塾大学医学部教授。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。第2次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。