妊娠をすると、ママのからだにはさまざまな変化が起こります。そのなかでも代表格といえるのが「おなかの張り」。一口に「張る」といっても、少し気になるレベルのものから、ひどく痛みを伴うものまで程度はさまざまです。そこで慶應義塾大学名誉教授で産婦人科医の吉村泰典先生に妊娠中のおなかの張りとはどんなものか、何が原因で起きるのか、起きた時の対処法などを妊娠の経過を追って教えていただきたいと思います。
おなかの張りは「生理的なもの」と「病的なもの」があります
――妊娠すると、おなかの張りが気になるプレママは多いですよね。そもそも、おなかの張りはどうして起きるのでしょうか?
吉村先生:おなかの張りというのは「生理的なもの」と「病的なもの」があります。そして妊娠初期のおなかの張りは、基本的には生理的なものがほとんど。妊娠に気づく4週から5週ぐらいのママのからだは、見た目はほとんど変わらなくても、子宮では胎盤が作られ、赤ちゃんを育てる環境が整い始めます。おなかの赤ちゃんや胎盤に栄養を届ける子宮の周りの血管は血流が増えていくし、妊娠していない時は鶏卵ぐらいの大きさだった子宮は、妊娠2~3か月で大人の握りこぶしよりも少し大きくなります。子宮が大きくなるにつれて子宮を吊っている靭帯(じんたい)は引っ張られて太くなり、腹筋も子宮に押されて張ってくるんです。
――なるほど。子宮の中で赤ちゃんを育てていく過程で、必然的に張りを覚えていくということですね。
吉村先生:そうです。子宮自体も筋肉だし、靭帯も腹筋も筋肉です。筋肉の特徴は収縮することですから、何らかの刺激を受ければ、子宮周りの筋肉は収縮して硬くなるんですね。それも張りを感じる一因になります。
――おなかが張るメカニズムはいくつかあるということでしょうか?
吉村先生:はい。しかも、おなかの張りの感じ方も人それぞれ。妊娠初期のおなかの張りの場合は、下腹部になんとなく違和感があるという人から、おなかが引っ張られるような感じがする、いつもより硬いなどの感覚が多いです。いずれにせよ、初期の場合は、生理的痛みの場合が圧倒的に多いので、症状としては、出血がなければまず心配ないと考えていただいて結構です。
――出血があるとたしかに不安になりますね。その場合はすぐに病院に行かなければなりませんね。
吉村先生:おっしゃる通りです。また出血はしないまでも、張りと同時に痛みを訴える方もいます。これも繰り返しになりますが、妊娠初期・中期に見られるおなかの張りのほとんどが、生理的な筋肉の反応によるものですから、軽い痛みであれば、それほど心配する必要はないでしょう。でも稀に、病気などが原因でおなかが張ることもあります。早く異常に気がつくために、どんな症状が起きたら医師に診てもらうべきか、そこのボーダーラインを知っておくことは大切なことだと思います。後ほど、それについては詳しくお話しますね。