専門医が語る「おなかの張り」のトリセツPart1【妊娠初期・中期編】

産婦人科医 / 吉村泰典先生

安定期でもおなかが張る場合は、注意が必要です

病院にいるプレママ

――妊娠16週から27週の妊娠中期は安定期とも言われますが、この時期におなかの張りを訴える人はどの程度いらっしゃるのでしょうか?

吉村先生:子宮内の胎盤が完成する妊娠16週ぐらいになると、一般的にはおなかの張りは感じなくなるものです。人によってはおなかがどんどん大きくなるために生理的な張りや痛みを感じることもありますが…。そういう症状が、1日3~4回ぐらいなら特に心配はいりません。でも、おなかが頻繁に張る、長く続くという場合は、流産や早産に結びつくこともありますから早めに受診した方がいいですね。

――本来であればあまりおなかが張らない安定期に、頻繁に張りを覚えるというのは、病的な原因が考えられるということですね。

吉村先生:この時期に頻繁におなかが張る場合、「絨毛膜羊膜炎(じゅうもうまくようまくえん)」という病気を引き起こしている可能性も考えられます。絨毛というのは胎盤の膜、羊膜は胎児を包んでいる膜のことで、そこに炎症が起きると、頻繁かつ規則的におなかが張るようになります。この絨毛膜羊膜炎が進行すると22~23週で破水してしまうことがあるんです。これを「前期破水(ぜんきはすい)」といいます。

――そんな時期に破水しても赤ちゃんは大丈夫なんですか?

吉村先生:羊水量が少なくなってしまうと赤ちゃんは育ちませんから、24~25週ぐらいで帝王切開になることもあります。妊娠中期の早産の原因のほとんどが絨毛膜羊膜炎によるものと言ってもいいのではないでしょうか。絨毛膜羊膜炎は腟から細菌に感染したことで引き起こされます。だからといって不潔にしているからなるわけではありません。たとえば、生活習慣とか妊娠中の性行為が炎症を引き起こすわけではないのです(出血がある場合は性行為はやめたほうがいいです)。とにかく絨毛膜羊膜炎は早期に発見して、治療を始めれば治ることも多い病気ですから、おなかの張りが気になるときには、早めに医療機関で診てもらったほうがいいですよ。

――他におなかの張りにつながる病気はありますか?

吉村先生:妊娠中期のおなかの張りは、「前置胎盤」でも起こります。前置胎盤というのは子宮の奥にできるはずの胎盤が子宮の出口の方にあらわれるもので、出血と張りが主な症状です。ただし妊娠の進行とともに胎盤が上がり、31週頃には通常の位置になることも少なくありませんから、生活に気をつけながら経過をみることになります。

子宮内部の様子

――生活に気をつけるというのは、疲れやストレスなどおなかの張りを起こしやすい原因をできるだけ取り除くということですね。

吉村先生:そうです。他に「頸管無力症」もあります。子宮の下にあって腟につながっている頸管(子宮頸部)がしっかりと閉じているからこそ、赤ちゃんは子宮で羊水に包まれて成長していくのですが、何らかの原因で緩んでくると、赤ちゃんと羊水を包んでいる羊膜が下がっておなかが張ってしまうんです。これが頸管無力症で、切迫流産・早産につながる疾患です。

――頸管無力症はどうやって治療するのでしょう。

吉村先生:基本は安静ですね。仕事や家事を休んで、できるだけ動かずにすごしてもらうことになります。まれに頸管をしばる手術がおこなわれることもあります。今は経腟の超音波検査で頸管や子宮の状態を把握することが可能ですから、病院で医師に診てもらえば科学的で客観的な診断をしてもらえます。また陣痛抑制剤を使っておなかの張りをとることもあります。

――妊婦さんは程度の差こそあれ、おなかが張るもので、ほとんどの場合は心配する必要はないけれども、稀に深刻な疾患が隠れていることもある…そう考えるとママは赤ちゃんのためにも、ご自身のためにも、自らの体調に気をつけて、違和感を感じたら早めに病院に行った方が良さそうですね。

吉村先生:その通りです。特に妊娠初期、中期に張りが長く続く、痛みが強い、出血を伴うという場合には必ず医師に相談してください。こんな程度で病院に行くのは…なんて考えないで結構です。診察の結果、早めに異常が見つかれば対処も容易になるでしょうし、仮に異常がないという結論が出たら、安心して妊娠期をすごすことができます。

――プレママが安心してマタニティライフを楽しめるように、自身の体調の変化には細心の注意を払ってもらいたいですね。本日はありがとうございました!


おなかの中でひとつの命を育てるために劇的に変化する妊娠期のママのからだ。いつもより注意深く見守っていきたいですね。さて、今回は妊娠初期と中期にフォーカスしてお話をお伺いしましたが、次回は「妊娠後期のおなかの張り」についても教えていただきたいと思います!

<画像提供>
吉村泰典(よしむら・やすのり)
慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医

1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

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