連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 
AI・デジタル時代に生きる子どもの“考える力”の育み方

小児科医 / 高橋孝雄先生

デジタル時代であっても、基本は変わらないはずです

タブレットを見る子ども

I :このデジタル時代にあっては、実体験する機会自体も、一昔前に比べると相対的に減ってきているのかなとも思います。ゲームにせよ、その他のデジタルデバイスにせよ、それがあれば友だちと会話したり、なにかを体験することなく、ひとりの時間に没頭することができてしまいます。自分も子どもの頃は、ゲームばっかりするな、と怒られた経験はありますが、いざ親になると、自分も同じことを子どもに言ってしまいそうです…。

高橋先生:その通りですが、ただ、ゲームだから実体験や感情を伴わない、というわけでもないと思います。たとえば、ゲームのしすぎを日頃注意されているのに、友だちの家でついついゲームに熱中して、気づいたら暗くなっていたとします。その子は、「やばい!門限すぎた。お母さんに叱られる」って焦って、急いで家路につくことでしょう。それって、すごく感情が揺さぶられている瞬間なんですよね。存分に遊んだ後の充実感、親の言いつけをまたしても破った罪悪感。すごく貴重な実体験なんですよ。なんて言い訳したら許してもらえるかなとか、一生懸命に知恵を絞るでしょ?

I :あー、帰り道はそのことしか考えないでしょうね(笑)。

高橋先生:デジタル時代であろうとなんであろうと、感情を伴う体験なんて日常生活の中でいくらでもありますよね。子どもというのは息を吸うように自然に、そうした体験から多くのことを学んでいきます。デジタルの落とし穴は、“出来事”と“感情”が仮想空間の中で完結していて、実世界と紐付かない場合。逆に言うと、実体験を積んで喜怒哀楽さまざまな感情を知れば、物事を深く考え、他者の感情を感じとったりすることもできるようになり、結果として想像力が大きく育まれるようになる。そうなれば、デジタル情報を正しく“実感”できるようになると思うんです。それは、実体験を多く積んだ人だけが、小説に描かれた世界観を実感し、楽しめるのと同じことだと思います。そういう意味では本もデジタルコンテンツも同じですよね。そう考えると、デジタル時代もアナログ時代も、基本的に大切こと、つまり実体験の重要性は同じと言えます。

I :なるほど。普通の暮らしの中に感情を伴った実体験があり、それを積み重ねることで“考える力”が育まれる。それは、AIやデジタル化がどんなに進んでも変わらないということですね。今日もいいお話をありがとうございました。


社会がデジタル化することで、人と人とのつながりが希薄になりがちとよく言われます。でもそんな時代だからこそ、感情豊かに、深い思考ができる人が望まれるのかも知れません。コロナ禍で外出自粛となり、家族ですごす時間が増えた今こそ、わが子との何気ない日常を大切にしていきたいものですね。

高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 

専門は小児科一般と小児神経。
1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

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