たまにしか会えないおばあちゃん、おじいちゃんには一番かわいい姿を見せたいのに、顔を合わせたとたんに泣きじゃくる赤ちゃん。親しみを込めて近づいてくる人を嫌がる赤ちゃんの様子に、ママ・パパは困ってしまうことがありますね。
今回は赤ちゃんの “人見知り”について、昭和女子大学で発達心理学を研究している石井正子先生に伺いました。人見知りの理由と、心の成長との関係を教えていただき、赤ちゃんへの寄り添い方を考えてみましょう。
千葉大学教育学部卒 日本女子大学大学院修士課程、昭和女子大学大学院博士課程修了 博士(学術)。昭和女子大学人間社会学部初等教育科教授、同大学院生活機構研究科人間教育学専攻教授。専門分野は障害のある子どものインクルージョン、子どもの生活環境が発達に与える影響など。二男一女の母。
大好きなママ・パパと他の人を区別できるようになったら、人見知りが始まります
担当編集I(以下、I):程度の差はあれ、ほとんどの赤ちゃんに見られる人見知り。そもそも、赤ちゃんはどうして人見知りするのでしょうか?
石井先生:人見知りは英語で“eight-months anxiety”、つまり「8か月不安」と言って、世界中の赤ちゃんに見られる現象です。早い子で6か月ぐらいから、ほとんどの子が8か月になると、見知らぬ人に不安を覚えて目を合わせたり、声をかけられるのを怖がるようになるんですね。
その頃の赤ちゃんは、いつも世話をしてくれる身近な人との間に愛着関係(アタッチメント)と呼ばれる強い絆が生まれ、認知能力も発達して、他の人としっかり区別できるようになっています。それで人見知りをするようになるんです。
I:頼れる身近なおとなとの信頼関係ができて、他の人とは違う存在だと認識すると、人見知りが始まるということですね。
石井先生:はい。2~3か月ぐらいの赤ちゃんは誰にでもニコニコ笑いかけるでしょう? あれは世話をしてもらわないと生きていけない赤ちゃんの本能的な戦略で、大人の「かわいい」、「守ってあげたい」という養護反応を引き出すための行為。それから次第に、自分を守ってくれる人と強い絆を作って、不安な時にはその人から離れてはいけないということを覚えていく。それが愛着関係、アタッチメントの根源になるんです。
I:赤ちゃんの無邪気な笑顔にそんな意味があったとは驚きです。自分の命を守るために、安心できる相手と強い絆を築いていこうとする本能が働くということですね。そして絆が出来ると人見知りが始まる。
石井先生:そうです。ほとんどの子は4か月ぐらいになると、ママ・パパに笑いかけ、手を差し出したり、声を出して甘えるものです。そんな赤ちゃんが次の段階として人見知りを始めたということは、2つの面での順調な発達を意味します。
まず身近な人との愛着関係が築けたという情緒的な発達。それから身近な人と他の人を区別することができるようになった認知能力の発達です。知らない人を怖がる赤ちゃんは親御さんを困らせてしまうかも知れないけれど、実は成長の証だと安心していいんですよ。
I:赤ちゃんが成長しているからこそ、人見知りをするんですね。それでも始まる時期も個人差があったり、ほとんど人見知りをしない子もいれば、人見知りのひどい子もいるようですが、それはどこが違うんでしょう?
石井先生:一番大きく影響するのは、持って生まれた気質と言われています。私たち大人でも、新しいものが好きでどんな事でも積極的にチャレンジしようとする人もいれば、未知の経験やよく知らない環境はできるだけは避けたいという人もいますよね。それと同じように、ちょっとした物音とか刺激に敏感な赤ちゃんがいる一方、大抵のことに動じないおおらかな赤ちゃんもいます。人見知りは知らない人に対する不安のあらわれですから、好奇心が強い赤ちゃんより、慎重な性格の赤ちゃんのほうが強くて当たり前とも言えます。
そもそも、ほとんどの子が1歳半から2歳ぐらいまでに終わるものですし、人見知りの傾向が強い赤ちゃんはいろんな刺激や変化に敏感で、自分の中の感覚に耳を傾けることができる性格とも言えますから、それは長所でもあるんです。だからあまり神経質にならずに見守っていただきたいですね。