妊娠16週から27週の妊娠中期は安定期とも言われ、一般的にはおなかの張りは感じなくなります。もっとも、人によってはおなかがどんどん大きくなるために生理的な張りや痛みを感じることもあります。そういう症状が、1日3~4回ぐらいなら特に心配はいりません。
安定期なのに頻繁におなかが張る場合は
おなかが頻繁に張る、長く続くという場合は、流産や早産に結びつくこともありますから早めの受診をしてください。
この時期に頻繁におなかが張る場合、「絨毛膜羊膜炎(じゅうもうまくようまくえん)」という病気を引き起こしている可能性も考えられます。絨毛というのは胎盤の膜、羊膜は胎児を包んでいる膜のことで、そこに炎症が起きると、頻繁かつ規則的におなかが張るようになります。
この絨毛膜羊膜炎が進行すると22~23週で破水してしまうことがあります。これを「前期破水(ぜんきはすい)」といいます。前期破水した場合は、24~25週ぐらいで帝王切開になることもあります。
妊娠中期の早産の原因のほとんどが絨毛膜羊膜炎によるもの
絨毛膜羊膜炎は腟から細菌に感染したことで引き起こされます。だからといって不潔にしているからなるわけではありません。たとえば、生活習慣に問題があった、もしくは妊娠中の性行為が炎症を引き起こすわけでもありません。出血がある場合は性行為はやめたほうがいいです。
絨毛膜羊膜炎は早期に発見して、治療を始めれば治ることも多い病気ですから、おなかの張りが気になるときには、早めに医療機関で診てもらいましょう。
「前置胎盤」でおなかが張ることもあります
妊娠中期のおなかの張りは、「前置胎盤(ぜんちたいばん)」でも起こります。前置胎盤というのは子宮の奥にできるはずの胎盤が子宮の出口の方にあらわれるもので、出血と張りが主な症状です。ただし妊娠の進行とともに胎盤が上がり、31週頃には通常の位置になることも少なくありませんから、生活に気をつけながら経過をみることになります。
妊娠中期には「頸管無力症」で張りを感じることも
頸管(子宮頸部)が何らかの原因で緩んでくると、赤ちゃんと羊水を包んでいる羊膜が下がっておなかが張ってしまいます。これが「頸管無力症(けいかんむりょくしょう)」と呼ばれるもので、切迫流産・早産につながる疾患です。
頸管(子宮頸部)が何らかの原因で緩んでくると、赤ちゃんと羊水を包んでいる羊膜が下がっておなかが張ってしまいます。これが「頸管無力症(けいかんむりょくしょう)」と呼ばれるもので、切迫流産・早産につながる疾患です。
気になることがあれば医師に相談を
妊婦さんは程度の差こそあれ、おなかが張るもの。ほとんどの場合は心配する必要はないけれども、稀に深刻な疾患が隠れていることもあるので、違和感を感じたら早めに病院に行った方が良さそうです。
特に妊娠初期、中期に張りが長く続く、痛みが強い、出血を伴うという場合には必ず医師に相談してください。診察の結果、早めに異常が見つかれば対処も容易になるでしょうし、仮に異常がないという結論が出たら、安心して妊娠期をすごすことができますよ。
1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。